「事務処理が苦手すぎて、あえて節税しない」は賢明?悪い節税で逆に経営悪化も

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「gettyimages」より

 人気漫画『薬屋のひとりごと』の作画で知られる漫画家の池田恵理香氏(ペンネーム:「ねこクラゲ」)が、3年間に得た収入の計約2億6000万円の所得を申告せず、約4700万円を脱税したとして、先月に所得税法違反(単純無申告)で懲役10月、執行猶予3年、罰金1100万円の判決を受けたことが大きなニュースとなった。そんななか、ある企業経営者がX(旧Twitter)上で<事務処理が苦手すぎて、税理士には「私の事務処理が最小化されることをゴールにしてください、節税しなくていいです」と言ってる>とポストし、さまざまな声が寄せられている。果たして「あえて節税しない」という行動は賢明といえるのか。また、そのような人は多いのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 個人事業主や中小企業の経営者にとって納税手続きは非常に面倒な業務の一つだ。手続きが複雑なうえにミスをすると追徴課税などの罰則を受けたり、社会的な信用を損ねて事業に悪影響がおよぶリスクもある。一方、うまく節税すれば、長期的な視野でみてより多くの資金を会社に残すことも可能になるため、顧問の税理士と相談しながら手続きを進めるのが賢明とされる。

「良い節税」と「悪い節税」

 そんな納税手続きをめぐって、少し前にある企業経営者がX上に前述のような投稿をし、さまざまな反応が寄せられ話題を呼んでいる。まず、一般的な節税行為としては、どのようなことが広く行われているのか。SMG菅原経営株式会社の代表取締役で税理士の菅原由一氏はいう。

「一般的な節税が、決算で利益が出た際に税金の支払いを将来に繰り延べすることです。以前は生命保険などを使うことが多かったですが、現在では中小企業倒産防止共済制度に加入して掛け金を積み立てたり、航空機オペレーティングリースなどもよく使われます。航空機オペレーティングリースは数千万円単位の費用を計上でき、支払った資金は10年後くらいに返ってくるのがメリットです。航空機以外にもトラックのリースなど、数年後に資金が返ってくるものもあります。このほか、社員に特別賞与を支給したり、社宅を保有して社員が負担する家賃の一部を会社が補助したり、出張旅費の手当について実際にかかった費用が低くても規程通り満額支給したりして経費計上を増やすという方法は、以前から広く使われています」

 では、事務負担の増大を避けるために、あえて節税をしないという人は多いのか。

「そのようなケースは、あまり聞いたことはありません。きちんと税理士などのサポートを受ければ、節税によって事務負担が重くなるということはないように思います。ただ、節税には『良い節税』と『悪い節税』があるという点は意識しておくべきです。節税というのは『経費として、いったんお金が外に出ていくものの、長期的にみればプラスになりますよ』というものなので、会社に資金は潤沢にあることが大前提となります。資金が乏しいのに『節税だから』といって経費をたくさん使ってお金が外に出て行ってしまえば、資金繰りが苦しくなってしまいます。つまり、単に『税金を払いたくないから』という理由だけで一生懸命に節税をするというのは避けるべきです」(菅原氏)

 逆に『良い節税』とは、どのようなものか。

「長期的な資金繰り計画や経営の観点から、『この節税は何のためにやるのか』『この節税は将来の経営にとってプラスになるのか』を考えることが重要です。そのような提案を納税者である個人事業主や企業経営者に対して行える税理士というのは、意外に少ないので、信頼できる税理士を選んで契約するということも必要です」(菅原氏)

3年以上たまっていると危険

 前述の漫画家のケースは節税の方法が不適切だったということではなく、数年間にわたり納税をしなかったというケースだが、意外にも個人事業主ではしばしばみられるという。

「忙しかったり、単に面倒だったりという理由で3年くらい確定申告をせずに溜まってしまっているという人は、たまにいます。3年以上たまっていると危険といっていい状況で、特に事業がうまくいって有名とまではいかなくとも世間的に名前が知られるようになると、税務署に目が付けられやすくなるので、注意が必要です。税務署のほうからお咎めを受けるかたちになると相当のペナルティーと手間を覚悟しなければならなくなるので、早めに税理士に相談して対処すべきです。そもそも『税務署から目をつけられなさそうだから確定申告しなくても大丈夫だろう』などという発想自体が過ちの元になってきます」(都内の税理士)

(文=Business Journal編集部、協力=菅原由一/SMG菅原経営代表取締役、税理士)