資生堂の危機…純利益99.9%減に透ける長期的苦戦、高級化粧品路線の誤算

資生堂の危機…純利益99.9%減に透ける長期的苦戦、高級化粧品路線の誤算の画像1
東京銀座資生堂ビル(「Wikipedia」より)

 資生堂の2024年度1~6月期決算の純利益が前年同期比99.9%減とインパクトのある数字になったことが注目されている。同社の純利益はここ数年、黒字と赤字を行ったり来たりと不安定な状況が続いており、2月には日本事業の全従業員の約1割に当たる約1500人の早期退職を募集すると発表するなど、重い空気が漂っている。日本を代表するプレステージ化粧品ブランドの資生堂は今、危機にあるのか。なぜ同社は苦戦しているのか。そして、長期的にみて成長を続けていくことができるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 資生堂の24年度1~6月期の売上高は前年同期比3%増の5085億円と横ばいを維持したが、コア営業利益は31%減の192億円、純利益は99.9%減の1500万円。日本のコアブランド( 「SHISEIDO」 「クレ・ド・ポー ボーテ」など)や欧州の注力ブランドが好調だった一方、トラベルリテール(空港や免税店など旅行者を対象とした小売事業)と中国事業が減速。中国市場における価格競争激化による化粧品ブランド 「SHISEIDO」の売上減、中国人旅行者の購買行動変化・消費意欲低下などが響いた。同社は「トラベルリテール・中国の減速に対し、全社を挙げた追加施策で達成を目指す」として24年12月期通期見通しは維持した。

「TSUBAKI」売却などの改革

 14年に日本コカ・コーラ元社長の魚谷雅彦氏が社長に就任して以降、大きな市場変化を受けて資生堂は改革に取り組んできた。21年には、ヘアケア商品「TSUBAKI」や男性用ブランド「uno(ウーノ)」、ボディーケアブランド「シーブリーズ」を含むパーソナルケア(日用品)事業を欧州系大手投資ファンド、CVCキャピタル・パートナーズに売却。同年にはイタリアの高級ブランド、ドルチェ&ガッバーナとのライセンス契約を解消。前述のとおり今年2月には早期退職の募集も発表した。

 こうした改革の一方、業績は安定しない。19年度には連結売上高、営業利益ともに過去最高を更新したものの、20年度は純利益が赤字に転落。21~23年度は黒字を維持しているが、1~6月期をみると20~21年度は赤字となっている。また、23年度の純利益は前期比36.4%減となった。魚谷会長CEOは24年12月31日付で退任し、藤原憲太郎社長が25年1月1日付でCEOに就任する予定。

事業縮小の割には利益もむしろ減

 なぜ資生堂は苦戦しているのか。経済評論家で百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏はいう。

「ここ1~2年の要因と、もっと長い長期的な要因の2つから資生堂は苦戦しています。ここ1~2年に関していえば、中国の不況が大きくマイナスに働いています。具体的には中国での高級化粧品の苦戦と、それを背景としたトラベルリテール部門の大幅減益です。中国本土でかつては圧倒的に人気があった『SHISEIDO』ブランドの売上が2割減で、それ以外の高級化粧品も一桁台のマイナスになっています。トラベルリテールは日本のインバウンドは絶好調ですが、アジアの落ち込みが激しいようです。中国人旅行者の免税買い物天国として知られていた海南島が特に落ち込みが大きく、3割も売上を落としています。

 資生堂の業績に関してより深刻なのは、長期的なトレンドとして売上成長ができていないことです。コロナ前の2015年から2019年にかけて一時期、資生堂が成長する時期があったのですが、コロナ禍以降、売上トレンドは頭打ちで成長が止まり、経済の回復期であるにもかかわらず資生堂はいまだ2017年の売上を超えることができていません。背景としては不採算事業の売却や縮小に力を入れてきたことがあるのですが、事業縮小の割には利益もむしろ減少している。経営判断がうまくいっていない状況です」