「ここ数年、企業のシステム部門の優秀な若手・中堅社員が外資系のコンサルティング会社やベンダ、プラットフォーム企業に誘われて転職するという動きが強まっていました。これらの外資系は元いた会社より数百万円高い年収を提示しており、誘われればそちらに行ってしまうのは、無理はないといえます。こうして人材流出により企業のITノウハウが空洞化し、人月単価に換算すれば自社社員より何倍も高いお金を払って外部のコンサル会社やベンダにPMをお願いするという皮肉な状況が生まれています」(中野氏)
一方、コンサル会社・ベンダ側に起因するものには、どのようなものがあるのか。
「SAPの保守期限やベテラン社員の定年退職という要因からか、ここ数年、コンサル会社に持ち込まれるシステム開発案件の数が急増し“コンサルバブル”ともいえる現象が起きているとも言えます。コンサル会社はそれらをさばくために新卒や中途で積極的に人材採用を一昨年位までしていました。かつての基準だとジュニアコンサルタントくらいのスキルしかない人材が一人前のコンサルタントといった肩書で顧客の前に出て、高い料金でプロジェクトにアサインされるケースが増えていると聞きます。その結果、コンサルのノウハウ不足でプロジェクトがうまくいかないというケースも少なくないようです」(中野氏)
では、ユーザー企業はプロジェクトを失敗させないために、どうすればよいのか。
「SAPを例に挙げるならば、まず企画の段階で『SAPありき』で考えないことです。ERPに限らずパッケージソフトやプラットフォームには向き不向きがあるので、自社の業務や実現したい目的に合っているのかという視点を持つべきです。たとえば売上に占める海外比率が7~8割の企業であれば、SAPの導入は十分な投資対効果が見込める可能性があるかもしれませんが、売上がほぼ国内のみの企業であれば、それが適切な選択なのかという視点での検討が必要になってきます。
コンサル会社の提案を鵜呑みにするのも気をつけた方が良いです。彼らは顧客企業の業務を決められたプロジェクト期間で可能な限り知り仕事を終わらせるという制約があります。当然ながら大企業の複雑な業務や文脈を深く知った上で実行するのは困難です。その上で契約が取れる事を優先に、利益を最大化する提案をしてくるものです。ビジネスですから。
そしてコンサルは導入後のシステム運用については深く関わらない事も多いです。運用を含めて良い所も悪い所もよくわかっているのは、丸投げをせずに自分の力で導入・運用をしているユーザー企業です。その様な他社のシステム部門に導入を検討しているパッケージソフトのヒヤリングを行うことも重要です。相手企業のシステム部門も常に他社のシステム部門との情報交換をしたがっているので、ダメ元でお願いしてみると意外に応じてくれるケースが多いものです。大規模なシステム導入・更新の企画には高度な技術的知識と費用対効果を検証できるスキルが必要であり、そのような専門的な人材を外部から引っ張ってきて企画業務を委託するというのも一つ方法です。
また、役員にCIO(チーフ・インフォメーション・オフィサー)を置くことも重要です。日本企業では総務部長や管理本部長などがCIOに就くこともありますが、そのような“名ばかりCIO”ではなく、技術と経営に詳しいCIOが経営会議や取締役会で発言権を持つ仕組みを構築すべきです。たとえばSAPのようなERPを導入する目的は一言でいえば『経営のガバナンス強化』であり、開発プロジェクトについてトップダウンで決断・推進する権限を有する人がいるかどうかは、プロジェクトの成否を大きく左右するカギとなります」(中野氏)
(文=Business Journal編集部)