イオンモールが「商店街を破壊する敵」から「福祉・公共施設」に変わった理由

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イオンモールの店舗(「Wikipedia」より

 ある寺の住職がX(旧Twitter)上に、かつてイオンが地方の商店街を破壊するといわれた時代から30年たち、今では「イオンは福祉」といわれるまでに変化したと投稿し、一部で話題を呼んでいる。こうした変化は、なぜ生じたのか。また、イオン側の変化・取り組みなども要因としてはあるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 1758年に三重県四日市で創業した岡田屋を源流とするイオン。1969年に岡田屋の代表だった岡田卓也氏らがジャスコを設立し、国内外に店舗網を拡大させ、89年に社名をイオンに変更。2008年にはイオン株式会社を純粋持株会社に移行させ、小売事業はイオンリテールが運営する体制に移行。15年にはアジアで小売業トップとなる連結営業収益8兆円を達成。M&Aを重ねて現在ではダイエー、ウエルシアホールディングス、マックスバリュ(一部地域会社)、キャンドゥ、いなげや、フジなどもイオンの子会社となっている。イオングループの店舗数は1万7000以上(連結子会社、持分法適用関連会社の合計)、従業員数は約59.9万人、営業収益(売上高に相当)は9兆5535億円(23年度)に上る。

地元の商店街や商工会議所から強い反対

 そんなイオングループの中核事業であるGMS(総合スーパー)「イオン」、ショッピングモール「イオンモール」といえば、高齢者や子ども連れのファミリー客が安全かつ快適に過ごせるよう、きめ細やかな施設面での工夫が随所になされていることでも知られている。特にイオンモールは食品に加えてアパレル、日用品、金融などさまざまなジャンルの店舗、映画館などのアミューズメント施設、家族客が使えるゆったりとしたフードコートなどが同一施設内に集約されていることから、開業に際しては周辺エリアの住民から歓迎される傾向が強い。高齢者やファミリー客が休日に丸一日時間を潰すこともでき、金融機関や調剤薬局などもあることから「イオンは公共機関」「イオンは福祉」という声まで聞かれる。

 だが、かつては出店計画が地元の強い反対の動きを呼ぶことも少なくなかったという。たとえば18年前の06年、長野市はイオンモールの出店計画に同意しない方針を通知。その理由として、地域経済に与えるマイナスの影響が広範囲に及ぶ点や、出店予定地域は開発を抑制する市街化調整地域を含むため農業振興と環境保全をはかる地域とする市の計画と合致しない点などを指摘した(06年2月12日付「しんぶん赤旗」より)。市と歩調を合わせるかたちで長野商店会連合会と商工会議所も反対を表明し、イオンは開業を断念した。

 流通ジャーナリストの西川立一氏はいう。

「1970~80年代は大店法によって、百貨店やスーパーなど大型商業施設を出店する際には、近隣地域の中小小売店や商店街に影響をおよぼさないよう細かい制約を受け、地元の商店街や商工会議所から強い反対を受けることが珍しくありませんでした。ですが90年代に入ると、郊外に増え始めた大型のショッピングモールのほうが便利だということで客がそちらに流れるようになったこともあり、商店街が徐々に衰退し、自然と反対運動は沈静化していきました。加えて2000年に大店法に代わって大店立地法(大規模小売店舗立地法)が施行され、大型施設の事業者は中小小売業の事業活動の確保に配慮する義務がなくなり、騒音や渋滞を起こさないようにするなど近隣住民の生活環境の保持へ配慮することのほうに重きを置くようになりました」

地域社会の利便性に寄与するような空間を豊富に設置

 現在、イオンやイオンモールが開業するとなると、周辺地域では歓迎する向きのほうが大きいのか。また、その理由とはなんなのか。

「地方は車社会なので郊外にある商業施設でも車で気軽に行くことができ、今までは地域になかったような人気テナントも多数営業しているので、基本的には歓迎する向きが多いです」(同)

 こうしたイオン出店をめぐる地域の受け入れ方の変化の背景には、イオン側の取り組みなども要因としてはあるのか。

「店舗が立地する各地域で人気のある飲食店や特色のある店舗を入居させたり、地元の産品を販売したりと、地域に根差したテナント・売り場構成を意識しています。また、郵便局、自治体の出張所など公共性の強い店舗、複数の病院を集めたクリニックモール、スポーツ施設、ウォーキングコースなどのほか、地域住民が集うパブリックスペースを設けるなど、買い物目的の人以外も利用でき、公共的で地域社会の利便性に寄与するような空間を豊富に設置することにも取り組んでいます」(同)

(文=Business Journal編集部、協力=西川立一/流通ジャーナリスト)