2024年春闘は13日、自動車や電機など大手製造業の集中回答日を迎え、労働組合からの要求に満額回答が相次いだ。特に日本製鉄は基本給を底上げするベースアップ(ベア)と定期昇給を合わせ、労組の要求を上回る14%の賃上げを回答する異例の展開となった。長引く物価高により実質賃金の目減りが続く中、大企業の賃上げの勢いを中小企業に波及させ、物価上昇を乗り越えられるかが焦点となる。
◇一躍注目された鉄鋼
「経済の好循環を実現し得る原動力となる回答結果ではないか」。自動車や電機などの産業別労組が加盟する金属労協の金子晃浩議長は同日の記者会見で、相次いだ満額回答に手応えを示した。
今春闘では、人手不足が深刻な小売業やサービス業を中心に、早期に高額回答で妥結するケースが続いた。賃上げムードの高まりは他業種にも及び、大手企業で早期決着の動きが鮮明に。ホンダやマツダは2月中に満額で決着し、スズキは組合要求に上乗せして回答した。
集中回答日で一躍注目されたのが日鉄だ。鉄鋼大手はこれまで隔年で賃金交渉を行ってきたため、23年の賃上げ幅は他業種に比べて大きく見劣りした。今春闘ではベア月額3万円という半世紀ぶりの高い要求を掲げたが、日鉄はこの要求をさらに大きく上回る3万5000円を回答。JFEスチールや神戸鉄鋼所も満額回答したが、これまでの横並びの慣例が崩れることになった。
日鉄の賃上げ率はベアだけで11.8%、定昇を含めると14.2%にも達し、三好忠満執行役員人事労政部長は「一流の処遇」と胸を張った。
今春闘では、自動車のほか電機大手でも満額回答が続出。電機連合の神保政史中央執行委員長は「ここを最高到達点と考えていない」とするものの、「最高水準の妥結だ」と強調した。
◇価格転嫁がカギ
中小企業の交渉は4月以降に本格化し、大企業の勢いを追い風に高水準の回答を引き出せるかに関心が集まる。ただ、中小が賃金を上げるには原材料費や人件費などのコスト上昇分を取引価格へ転嫁し、原資を確保する必要がある。値上げの受け入れには慎重な企業が多いのが実情で、3月上旬には日産自動車が下請け業者に納入代金の減額を強要していたことも明るみに出た。
「価格交渉をやると仕事が失われてしまうとの恐れを抱く中小経営者は多くいる」。機械・金属産業の中小企業労組を中心とする「ものづくり産業労働組合JAM」の安河内賢弘会長は、中小企業の値上げは難しいと漏らす。
今後ポイントとなるのは賃上げが物価上昇を上回るかどうかだ。前年の春闘では連合集計で平均3.58%と30年ぶりの高水準となる賃上げが実現したが、物価の高騰に追い付かず、23年の実質賃金は2年連続でマイナスに陥った。労働問題に詳しい日本総合研究所の山田久客員研究員は「実質賃金がプラスにならなければ消費が伸びず、価格転嫁も進まないため賃上げが全体に波及しない」と実質賃金の安定的なプラスが重要と指摘する。
政府は賃上げをデフレ経済からの脱却の好機と捉え、労働界、経済界との連携を深める。各界代表者による政労使会議を全国各地でも開き、中小の価格転嫁を後押しする。マイナス金利政策の解除をうかがう日銀も春闘の動向を注視している。(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2024/03/11-23:25)