富士通の苦境、失望広がり株価低迷…「システム開発」モデルから抜本的転換へ
この前代未聞の冤罪はなぜ起こってしまったのか――。報道資料をもとに事件の裏側を探り、富士通に取材した。
もともとホライゾンは、1998年に富士通が買収した英IT企業ICLが開発したシステム。2000年からポスト・オフィスにて稼働し、13年時点で1万1500の支局で毎日約600万件もの取引を処理していた。なおポスト・オフィスは、1986年に設立された英国内の郵便窓口業務を行う郵便局会社であり、郵便物の受付、切手の販売などを行う。
本スキャンダルで無実の罪を着せられた郵便局長は、ポスト・オフィス側と直接の雇用関係がなく、事業主として業務を委託され郵便局を運営している者を指す。ちなみに英語では「Sub Postmaster」といい、直訳すると「副郵便局長」だが、立場的には郵便局長と変わりない。
ホライゾンは稼働当初から不具合や原因不明のエラーが郵便局長から報告されていたものの、ポスト・オフィス側はシステムの非を認めなかった。郵便局長側に責任を負わせ、不足分の金額を補填できなかった際には、横領の容疑で投獄させることもあったという。最終的に700人もの郵便局長が借金を背負ったり罪に問われたりし、疑いをかけられた人は3500人以上にも上ったと報じられている。
BBCニュース、Newsweekなどでは、被害者の元郵便局長が涙ながらに取材に応えた姿が報じられた。不足額がどうして発生しているのかわからず、本部に報告した途端に契約を打ち切られ、挙句の果てに罪人扱いされ起訴される理不尽な仕打ちにあい、なかには刑務所に入るのをためらい、やむを得ず罪を認める人もいたという。
裁判によって元郵便局長らに賠償金は支払われたものの、その多くは訴訟費用に充てられた。和解後にポスト・オフィスは被害者へのお詫びと、同じ間違いを繰り返さないよう声明を出すと同時に、補償体制を整備。これまで2400人近くが申し立てを行った。
次々と有罪判決が覆され、無実となった元郵便局長たち。21年当時のボリス・ジョンソン英首相もTwitterにて「元郵便局長の有罪判決を覆す判決を歓迎する。二度と同じ間違いが起こらないようにするため、教訓を学ぶべきだ」と語った。
では裁判で認められるほどシステムに欠陥があったにもかかわらず、なぜポスト・オフィスはホライゾンの稼働を中止しなかったのか。その理由のひとつには、英国政府と富士通UKの癒着にあると指摘する声がある。BBCニュースによると、英国政府の歳入関税庁、労働・年金省のITシステムは、長らく富士通のものを利用しており、今や富士通なしでは英国政府のITは機能しないという。
また04年、富士通が英国民保健サービス(NHS)と契約した際に、開発の遅れでNHSが富士通との契約を打ち切ったことがあった。それに富士通は反発し、訴訟を起こした結果、NHSは敗訴。富士通に対して多額の支払いを行うことになった。このように英国政府との深い関係、NHSの訴訟の前例があることからポスト・オフィスは、富士通との契約を打ち切ることに消極的だったとの指摘もある。
富士通は当サイトの取材に対し、次の回答を寄せた。
「本件を厳粛に受け止めています。当社の英国子会社は、現在の法定調査が開始されて以降、継続的に協力をしており、将来に向けて重要な教訓が得られるよう、最大限の透明性のある情報を提供し続けることを法定調査に対して約束しています。現時点で法定調査が進行中であるため、本件に関するこれ以上のコメントは差し控えさせて頂きます」
元郵便局長たちが受けた社会的、経済的損失ははかりしれない。公聴会を経て、富士通がどのような行動を取るかについて注目が集まっている。
(取材・文=A4studio)