NHKが昨年5月に放送した『ニュースウオッチ9』で、ワクチン接種後に亡くなった人の遺族を、新型コロナウイルス感染者の遺族と誤認させるように放送した問題で、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は12月5日、「事実を正確に伝えるというニュース・報道番組としての基本を逸脱した」などとして、放送倫理違反があったとする意見を公表した。
また同月、NHK記者が取材した際のメモがインターネット上に流出し、NHKが関係者に謝罪する事態に追い込まれた。調査の結果、NHKの子会社が契約している派遣スタッフが流出させたことが判明している。
たて続けに不祥事が続いたことで、NHKに不信感を募らせる視聴者が増えている。メディア・コーディネーターで放送批評懇談会企画委員の氏家夏彦氏は、視聴者がNHKにシビアな視線を送る理由を、こう分析する。
「NHKの不祥事に関しては、どちらもかなり重大な問題です。放送メディア、報道機関としては絶対にやってはならないことをやってしまいました。NHK内でも厳しい処分が下されたと聞いています。
では他方、民放はどうかというと、それなりに問題は起こしているようです。NHKは、国民が直接、受信料を徴収されているので、見られる目が余計厳しくなるのでしょう」
受信料は、テレビ等の放送受信機器を所持している人は支払わなければならず、半ば強制的に徴収されることから、国民から厳しい目を向けられるのも必然といえる。
その受信料についても、昨年4月より「不正な手段により受信料の支払を免れた場合」と「正当な理由がなく期限までに受信契約の申込みをしなかった場合」について、支払わなかった期間の2倍の金額を請求することになった。
さらに、NHKの地上波放送をネットで同時配信・見逃し配信するなどのネット事業を必須業務とすることで、テレビを持たずにネットから情報を取得できる人にも相応の費用負担を求めることを検討しており、受信料徴収の動きは強まっている。
「受信料を払わなかった人に2倍請求するのも、ちゃんと受信料を払っている者からすれば、それくらいの厳しさは必要だとも受け止められます。全世帯が受信料を払えば、それだけ受信料の単価が下がるのですから。
また、ネット配信も受信料を払っている世帯の人ならタダで見られます。受信料を払わずにネット配信をタダで見たいというのは、受信料を払っている者からすれば“ふざけるな”と言いたくなるところですので、お金を払わないとスクランブルをかけて見られないようにすればいいだけです」(氏家氏)
受信料を払っていない人はNHKを視聴できないようにする“スクランブル放送”は、以前から導入を求める声が多くあるが、NHKは「NHKが担っている役割と矛盾するため、公共放送としては問題がある」として否定的だ。
「地震・台風などの災害時にNHKの果たす役割は、今回の能登半島地震の報道を見ても非常に大きなもので、“もう通常放送に戻ってもいいだろう”と視聴者に思わせるほど、しつこく大量の報道を続けました。
災害時、非常時には受信料は関係なく全ての国民に情報を届けるべきなので、配信ではスクランブルを外せばいいだけです。
最近、NHKのテキストでのニュース配信に対して、新聞協会が抗議しているらしいですが、これも受信料・配信料を払っている人だけが見られるようにすればいいだけです。ただ配信でスクランブルをかけるなら、放送も同じように受信料を払った人だけが見られるようにすればいいじゃないかという流れになります。NHKはそれを恐れています。
受信料はテレビ受像機を持っている世帯は払わなくてはならないと、法律で決められていますが、スクランブルにすれば、“それなら自分は見なくてもいい”という人が少なからず出てきてNHKの受信料収入が激減することが怖いのです。
このあたりは、放送法の公共放送の概念を変えるものであり、NHKは強く抵抗するでしょうが、日本でも広く議論すべきだと思います」
テレビ放送が本格的に開始されてから70年が経過した。NHKの在り方について、国民の意見を取り入れつつ見直してもいいのではないだろうか。
(文=Business Journal編集部、協力=氏家夏彦/メディア・コーディネーター、放送批評懇談会企画委員)