大手が強いる不平等契約についての法整備は進んでおり、以前よりも問題になることが少なくなってきているという。
「例えば、IT業界の黎明期は一部の大手企業の寡占状態になっており、中小企業は不平等な契約を結ばざるを得ないということが横行していました。そこで経済産業省がシステム開発やソフトウェア開発に関する契約書の雛形を作成し、是正に努めたということがありました。同時に、IT関連の技術がコモディティ化していき、会社が増えていったことで、こうした不平等な契約は少なくなっていったという流れがあります」(山岸氏)
とはいえ、中小企業側にしてみたら法務や契約にかけるコストもなく、大手が提示した条件を飲まざるを得ないのが現実。これを防ぐためには、どのような自衛方法があるのだろうか。
「企業間の契約は最初の取引をする時に慎重になりがちです。でもそこで契約内容を詳細に見て、修正を加えることに時間をかけるよりも、はやく仕事をして結果を出したほうがいいんじゃないかと個人的には思いますね。仕事で実績を積み上げて、契約更改時に改めて条件交渉をするほうが手っ取り早いのではないでしょうか」(山岸氏)
プロスポーツ選手と同じで、まずはプレイに専念して結果を出せば、次はもっと有利な条件で契約できる、という理屈だ。
「その点も踏まえて、私が契約書をレビューするときに重点的に見るのは、その『取引期間』です。仔細な条件に加えて、どのくらいの期間で契約を結ぶのか、というのが重要になってくると思います」(山岸氏)
中小企業からしてみれば、相手は常に悪巧みをしているのではという意識を持ちがちだが、それは大企業側も同じ。その疑心暗鬼を防ぐためにも契約書がある。
「大企業に法務のプロがいるということは、そこまで違法性の高いことはやりません。不平等に思える条件でも、法に則って最低限のリスクヘッジをした結果だと思ったほうがいいですね」(山岸氏)
契約の行き違いにより、トラブルになってダメージを受けるのは大企業も中小企業も同じ。一見して「不平等」に思われる契約も、お互いに円滑に仕事を行っていくための最初の妥協点であることが多いようだ。
(文=清談社、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表)