5月、社会保険労務士だというTwitterユーザーがつぶやいた内容が、一部で話題を呼んだ。とある経営者から「問題社員がいたので社会保険外して15年働いてもらっているが、これはマズイのか」と聞かれたというもので、とんでもない相談に仰天したというつぶやきだった。この投稿に対し「自分の感情で社会保険を外すなどということが起きるものなのか」など、驚きの反応がいくつも寄せられることとなった。そこで今回は、社会保険労務士法人ALLROUND渋谷の中健次氏に、労働法を軽視してしまう中小企業経営者の実態について聞いた。
企業経営者による今回のような行為は違法行為なのか。
「具体的にどう社会保険を払っていなかったかは推測するほかないですが、おそらくその社員に対して国民健康保険と国民年金に入るように促し、会社負担の社会保険に加入させていなかったのではないでしょうか。従業員数などによっても異なりますが、多くの会社の社会保険資格は、契約形態にかかわらず週の労働時間が30時間以上の労働者には、強制的に取得させなければいけないものです。そうわかっていながら外した、つまり資格を取得させなかったのであれば、年金事務所が悪質と判断した場合は6カ月以下の懲役、もしくは50万円以下の罰金が課せられる可能性があります」(中氏)
ただ、すぐさま懲役や罰金の対象になることはないという。
「事実確認のうえ、違法事案の内容によって年金事務所などから是正・加入指導がきます。そして、この是正指導も無視した場合などに初めて悪質とみなされ、懲役や罰金という判断がくだされることもありますが、逆にいうとこうした手順を抜きにいきなり罰則とはなりづらいのです。ただ、今回のケースを発端に同様の事例が次々と明るみに出て社会的に問題視されれば、比較的すぐに罰則が下されやすくはなるでしょう」(同)
15年間、社会保険が不払いだった場合、労働者側に支払い命令が下る可能性はあるのか。
「勤務先に是正・加入指導がくるパターンとしては、会社が一切社会保険を負担せず、従業員の個人負担分も給料から天引きせずに利益にしていた場合などです。この場合、会社側は当然未払い分を支払う必要があり、労働者側もこれまで給料から天引きされるはずだった分は引かれます。ただ、おそらく会社主導と思われる今回のような事例は会社側の問題ですので、労働者の給料から今までの分を一括して引くなんてことは、まず起きないでしょう。
仮に起きたらそれはまた別問題なので、労働基準監督署などに相談すべき案件となりますね。また、離職後に発覚した場合ですが、離職者に対して個別に支払いが命じられることはないと思います。会社が代行義務を怠り、天引きするはずの負担分を利益にしていたことを考えると、会社側が全額負担することになるでしょう」(同)
労務や人事、勤務形態、雇用条件などをめぐる違法まがいの事例は少なくないという。
「今回のような横暴な労働条件を強いる事例は、中小企業で実際に多いです。会社側が労働者に対して告知しなければならない義務を怠ったり、『どうせ違反をしても気がつかないだろう』と、平然と労働者に対して違法対応をしたりするケースをこれまでいくつも見てきました。正直、私は今回Twitterで話題になった事例を最初に耳にしたときも、特に驚きはありませんでしたからね。
他の例をあげると、正社員で会社に入ると、3カ月ほどの試用期間が設けられることもありますが、『社会人として見習いなのだからこの期間は社会保険に加入させません』といった対応をしている会社がありました。これは法的な根拠がまるでない違法行為です。また、労働者の意思ではなく経営者が勝手にタイムカードを押して、証拠が残らないようにしてから長時間労働をさせるケースもあります。こうした行為が残念ながら未だになくならないのが実情です」(同)