働き方が多様化している時代でも、企業の体質や風土によっては早朝出勤に取り組む意義は、大いにあるといえる。だが冒頭で言及した通り、見方を変えれば、社員の働き方に対する過干渉とも捉えかねられない。曽和氏によれば、働き方改革やコロナ禍による影響であからさまなマイクロマネジメント型の企業はどんどん減っているという。
「そもそもマイクロマネジメントとは、リアルタイムで部下の仕事ぶりを監視し、進捗状況を管理するマネジメント方式です。これは同じ空間で仕事をし合っていたから機能していた方式で、従来の日本企業らしいマネジメントでした。ですが、リモートワークが始まると対面で話しかけられなくなり、メールや電話で進捗状況を聞くことになる機会が多くなります。これでは生産性が大きく低下し、うまく部下を管理できなくなってしまいますよね。
そこで現在では、KPI(重要業績評価指標)を設定し、オンライン上でリアルタイムに進捗状況を表示させることで業務を遂行させる方式が徐々に増えてきています。あらかじめミーティングなどで業務目標を取り決めたうえで仕事に取り掛かるので、常に上司が部下を見張る必要もなくなり、マイクロマネジメント的な考え方は鳴りを潜めつつあるといえますね」(同)
しかし、企業によっては、マイクロマネジメント型のほうが合理的かつ効率的な経営ができるという。
「企業のマネジメント志向の類型についてみてみましょう。経営学者のグライナーが唱えた企業のマネジメントの類型は大きく5つに分かれています。1つ目は経営者の仕事ぶりを社員に見せて仕事のやり方を覚えさせるやり方。2つ目は1~10までをすべてマニュアル化するやり方。3つ目はゴールを与えて達成度合いによってインセンティブを与えるやり方。4つ目は社員が立てたスケジュールに対し、社員の状況、技量に合わせて調整するやり方。5つ目は会社の理念、価値観を共有し、最終的なゴールを目指すやり方。諸説はあるものの、マイクロマネジメントは、2番目のやり方を徹底することにより成立するマネジメント手法です。
グライナーは企業の成長段階によって、マネジメントのやり方は変わると唱えましたが、実は条件を満たせば2番目のやり方でも機能するんです。それはズバリ天才的、カリスマ的な人物が経営者として組織運営をしている場合。特別な才能を持った経営者のアイデアや経営思想があれば、その考えのもと、社員が最適化した仕事をこなせば企業は回るようになると言われています。たとえば、ファーストリテイリングは会長兼社長の柳井正氏の指導のもと、大きな業績を残していますよね。もちろんこれは特例中の特例の話なので、すべての企業が2番目のやり方で成功するとはいえず、模倣して失敗してしまう企業もあったのではないでしょうか」(同)
企業全体としては、3番目のやり方にシフトするのが望ましいという。
「社会全体として、個人の創造性を最大限発揮することが市場での勝ち負けを決めるといわれる時代ですので、労働時間から働き方まで社員に裁量を持たせるやり方がベストではないでしょうか。そうなるとやはり上司がいちいち部下を管理するやり方では無理が生じますので、グライナーの提唱する3番目のやり方で個人に自由と責任を与え、仕事に臨ませるべきだと思います。そう考えると、早朝出勤は一律して強制ではなく、あくまで選択肢として個人に委ねるのが望ましいでしょう」(同)
(取材・文=A4studio、協力=曽和利光/人材研究所代表)