米WTI原油先物価格はこのところ1バレル=80ドル前後で推移している。OPEC主要加盟国の4月2日の発表(5月から年末まで自主的に追加減産を行う)が原油価格を下支えしている。個別にみると、サウジアラビアが日量50万バレル、イラクが21万バレル、アラブ首長国連邦(UAE)が14万バレル、クウエートが13万バレルそれぞれ減産する。トータルの減産量は116万バレルに達する見込みだ(世界の原油供給量の1%分に相当)。
市場関係者は「OPECプラスは昨年11月から実施している日量200万バレルの減産を維持する」と当然視していたため、この決定はサプライズだった。不意を突かれたことが原油価格の急上昇につながったわけだが、足元の原油市場の状況はどうなっているのだろうか。OPECの3月の原油生産量は前月比7万バレル減の日量2890万バレルだった。OPECの生産量が目標に達しない状態が続いており、3月の遵守率は2月の169%から173%に上昇した。今回の減産決定は実際の生産量に近づけたにすぎず、市場へのインパクトはほとんどないといっても過言ではない。OPECの自主減産の発表後にロシア産原油の価格も1バレル=60ドルを超える水準に上昇し、輸出量もウクライナ侵攻前の水準に戻っている。
世界最大の産油国となった米国の生産量は日量1200万バレル強の水準を維持しているが、注目すべきは輸出量の増加だ。米エネルギー省は3月30日、「昨年の米国の原油輸出量は前年比22%増の日量360万バレルに達し、過去最高となった」と発表した。昨年の欧州連合(EU)への原油輸出で米国が首位に浮上し、ロシア産原油の穴を埋めている。
供給サイドが比較的堅調なのに対し、需要サイドはどうだろうか。ゼロコロナ政策を解除した中国の原油需要が拡大することが期待されている。中国の3月の原油輸入量は前年比22.5%増の日量1230万バレルとなった。2020年6月以来の高水準だが、石油製品の輸出需要に牽引された形となっており、国内の需要がそれほど伸びているわけではない。製造業と自動車販売が低迷しており、「中国の原油需要のV字回復は見込めない」との見方が有力となりつつある。
世界最大の原油需要国である米国の製造業も苦境に陥っている。米サプライマネジメント協会(ISM)が4月3日に発表した3月の米製造業景況感指数は前月から1.4ポイント低い46.3だった。好不況の節目である50を5カ月連続で下回った。米中両大国の製造業の不振は世界の原油需要にとってマイナスだといわざるを得ない。OPECはこれまで世界の原油需要に対して強気の姿勢をとってきたが、4月13日に公表した月報のトーンは下がり気味だ。「米国では毎年夏のドライブシーズンに輸送燃料の需要が伸びるが、金融引き締めのせいで経済が弱含めば、季節的な力を一部相殺される恐れがある。世界経済についても高インフレや金融引き締め、金融市場の安定、債務水準といった潜在的課題がある」といった内容だ。最近の米国発の金融不安などの影響に触れた形だが、緊急避難的な減産に踏み切ったOPECの苦しい胸の内が垣間見える。
金融不安といえば、2008年9月に起きたリーマンショックが想起される。金融危機で市場のセンチメントが急速に悪化したのにもかかわらず、OPECは減産などの緊急措置を講じなかったことから、原油価格は半年後に1バレル=30ドル台にまで急落したという苦い経験がある。原油価格は3月中旬、1バレル=65ドルを割り込んでおり、サウジアラビアをはじめOPECの首脳たちは「2度と同じ失敗を繰り返してはならない」との思いがあったとしても不思議ではないだろう。