清水池氏によると、「食用として売る予定のオスの子牛は値段がつかず、仕方なく殺処分した状況も一部であった」とのことで、酪農家の心労の大きさは想像に難くない。
国内の酪農家が生産抑制を行う一方で、日本は海外から乳製品を大量輸入しているとも聞く。
「日本における生乳を利用した乳製品の消費量は、年間約1200万トンといわれています。そのうち国内の生乳由来の乳製品の生産量が約740万トン、残りの約460万トンは海外からの輸入。そんな海外輸入の乳製品のうち約300万トンがチーズなのです。
こうした海外輸入のうちで、政府が管理しているのは14万トンだけで、残りは民間企業が行っています。自由経済ですから乳製品が余っているからといって、政府や農協が『国内の乳製品を利用して』とは強制できません。どうしても国内乳製品のほうが割高になってしまうので、民間企業としては外国産の安い乳製品を仕入れたいですからね」(同)
現況を打破する方法は残されてはいないのだろうか。
「酪農家は、生乳の価格を20円くらいは上げたい気持ちがあると思うのですが、今は物価高が上昇している一方で消費者の所得は停滞していて、お財布の紐は固い状況です。ですから値上げをしたとすると、今まで買ってくれていた顧客が離れ、結果的に売り上げが落ちてしまうリスクがあり、踏み切れない。つまり、上げたくても上げられないのです。一般家庭目線で見ると、牛乳やバターは米や野菜のようなものとは違い、我慢しようと思えば我慢できてしまう食品というのも苦しいところでしょう。
生乳価格の引き上げに加えて、国内の余っている生乳をチーズにして、それを国内企業に輸入価格に近い安価で買ってもらい、その安くした分は国から補助金を出して補填してもらうといった方法も考えられます。これはかなり有力な方法であり、酪農家が生産抑制しなくて済むだけではなく、自給率が現在10%しかないチーズの国産化推進は食料安全保障の強化にも貢献します。全てを国産化する必要はなく、輸入チーズの10%を国産化するだけで、現在の生乳余りの状況は解消できます。ただ、これも一朝一夕でつくれるような制度ではなく、制度の構築に時間がかかりますが、いずれにしても酪農家の体力が尽きてしまう前に、国になんらかの政策に取り掛かっていただきたい限りです」(同)
この他にも清水池氏いわく、「今後同じような状況が起きたときのために、酪農家と国がお金を出し合って基金をつくることなども重要」だという。日本の酪農家が厳しい状況から抜け出すには、一時的な対策にしかならない乳牛の食肉転換に代わる、根本的解決になる国主導の対策が必要なのかもしれない。
(文=A4studio、協力=清水池義治/北海道大学大学院・准教授)