1月15日午後1時頃、日本列島から約8000km離れた南太平洋のトンガ諸島にある海底火山(フンガトンガ・フンガハアパイ)が大噴火を起こした。気象庁が「津波警報」などを発令し、各地で最大1メートル以上の潮位の変化が見られたことから、日本でも一時騒然となった。
1991年にフィリピンで起きたピナツボ火山以来の巨大噴火だったことから、広範囲に飛び散った火山灰などの影響に関心が集まっているが、筆者は「この巨大噴火は、日本で近く起きる可能性が高いマグニチュード7以上の地震(メガ地震)の予兆ではないか」と肝を冷やしている。
日本では「プレート説」で地震の発生が説明されるが、筆者がかねてより信頼を寄せているのは角田史雄・埼玉大学名誉教授が提唱する「熱移送説」だ。熱移送説は「地球内部から湧昇する高温の熱の流れ(高熱流)が、表近くの岩石を膨張・破壊させることで地震を引き起こす」と考える。高熱流の吹き出し口は2つあるとしており、その一つがトンガを含む南太平洋の地域だ。トンガで大噴火が起きたことは地球内部からの高熱流が大量に地表に達したことの証左であり、この高熱流は日本にも到達すると考えられている。
21世紀初めに熱移送説を提唱した角田氏はその後、米国地質調査所(USGS)が2012年から公表するようになった地下660kmまでの地震のデータを解析したことで新たな知見を得た。深発地震(地下410~660kmで起こる地震)と地表で起きるメガ地震との関係を見つけたのだ。
角田氏が提唱する最新の「熱移送説」の詳細は『徹底図解 メガ地震がやってくる!』(角田史雄、藤和彦著)を参照してほしいが、その概略は以下の通りだ。
(1)地球の外核(地下2900km)から高熱流(2200~5000度)が下部マントル(地下2900~660km)の中を湧昇し、上部マントルの遷移層(地下660~410km)に到達すると、高熱によって遷移層の岩石が割れて深発地震が発生する。
(2)その後アセノスフェア(地下300~1000km)が高温(1000度)となり、地殻(地表から地下40kmまで)中のマグマが地表に達する。
(3)地表には南太平洋のタヒチ~フィジー諸島と東アフリカの2カ所に高熱流の吹き出 し口がある。南太平洋の吹き出し口からアジアに向かうルートがあり、このルートを通って日本の近くに高熱流が到達すると火山が噴火し、地震が発生する。以上が角田氏が提唱する地震発生のメカニズムだ。
著書のなかでは日本人にとって「常識」ともいえるプレート説についての「不都合な真実」も明らかにしている。プレート説は、地球の表層部に広がる十数枚の冷たい固い岩板(プレート)がぶつかることで地震が発生すると考える。日本で地震が多発するのは、2つの陸地プレート(北アメリカとユーラシア)と2つの海洋プレート(太平洋とフィリピン海)の上に乗っているからだとされている。
1960年代の米国でプレート説が提唱された時は、限定された海域を対象にした仮説にすぎなかったが、この説に夢中となった当時の日本の研究者たちは具体的な検証を行わずにその適用範囲を地球全体にまで広げてしまった。日本では語られることはほとんどないが、その後、マントルトモグラフィーという技術を用いて地球内部の様子を見てみると、(1)地球の表層部に広がっているはずのプレートは点在しているにすぎないこと、(2)プレートを移動させる原動力とされるマントルの対流は確認できないことなどが明らかになっている。
このことはプレート説では地震の発生を説明できないことを意味する。1995年の阪神淡路大震災以降、プレート境界面が震源となったメガ地震は存在しないし、プレート説で予知できたためしもない。