テレワーク・在宅勤務でも“まったくストレスを感じない”人は、何が違うのか?

 強度のストレスを受けていた人のなかでも、「ストレスは健康に悪い」と思っていなかった人たちには、死亡リスクの上昇は見られなかった。それどころか、そう考えるグループは、調査をした人たちのなかで最も死亡リスクが低かったのだ。ストレスがほとんどない人たちよりも死亡リスクが低かったという。

 この結果によって、マクゴニカル氏は、「ストレスがあったとしても、それを穏やかな心で受けとめることができれば、心身の健康は阻害されないばかりか、むしろ改善される。困難に直面したらストレスを感じるのが自然だと考えて受け入れる人は、ストレスと戦おうとする人よりも、再起力があって長生きする」と考え方を改めたのだという。

ストレスの良い面

 実際に、ストレスには悪い面ばかりでなく、良い面もあることがわかっている。複数の研究によれば、ストレスは気力を高め、明晰さを増し、状況をより正確に把握できるようにする。障害を克服する過程で自信を強める効果もある。

 これは最も長く持続する、最も望ましい種類の自信だという。つまり、ストレスは悪者であると同時に、どうやら善いものでもあるようなのだ。命の危険にさらされた時など、極度の緊張と共に、大きなストレスが掛かる。しかし、これは命を守るための準備として必要なものに違いない。

 人間は、他の動物と同様、ストレス要因に対して本能的な身体反応を示すと、ニューロリーダーシップ・インスティテュートのシニアサイエンティストのハイディ・グラント氏は説明する。交感神経(闘争・逃避反応)が活発になり、副交感神経(安静と消化)が抑制され、アドレナリンとコルチゾールが分泌される。こうしたことが起きるのは何のためかといえば、身体に「活」を入れるためだ。覚醒レベルと集中力を高め、行く手を阻む障害に対処するために、肉体的・心理的な準備を整えるのである。

 これらの作用により、仕事上も集中力が増し、問題に的確に対処したり、生産性を高めたりといった優れた効果を発揮することにつながるのだ。ストレスの影響を判断するための最も重要な要素は、「ストレスに対する意識の持ち方」であるようだ。ストレスの「量」は驚くほど役に立たない情報だという。

 心理学者のクラムらの研究では、ある国際金融機関の400名近い従業員を対象として、ストレスに対する意識を調べた。研究者たちは、ストレスに対して異なる捉え方をする2つのグループに分けた。「ストレスはマイナスの影響をもたらすので回避すべきだ」などの言葉に賛同した「ストレスは衰弱要因」と考えるグループ。「ストレスを経験することは学びと成功につながる」などの言葉に賛同した人々は、「ストレスは向上要因」と考えるグループ。

 その結果、「ストレスは向上要因」と考える人々は、「ストレスは衰弱要因」のグループと比べて、より健康で、人生への満足度が高く、仕事のパフォーマンスでも優れていたのである。このタイプは、コルチゾールの分泌レベルが「最適」になりやすいことも明らかになった。ストレス要因に対するコルチゾールの分泌は、多すぎても少なすぎても生理的に悪影響となりうる。これらの結果から、研究者らは、「ストレスがあなたを打ちのめすのは、あなたがそうと思い込んでいるからに他ならない」と結論づけている。

 以上のように、通常私たちは、ストレスは完全に悪者であると決めつけているが、実際にはさまざまなメリットも存在し、必要なものでもあるのだ。ストレスは害であるという思い込みこそが、心身を害しているようだ。ストレスは必要なものだと逆の捉え方をすればメリットが享受できる。であるならば、ストレスを感じがちな時こそ、その良い面に目を向けるべきではないだろうか。

(文=相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント)

●相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント

早稲田大学大学院社会科学研究科博士前期課程修了。マーサージャパン副社長を経て現職。人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わる企業支援を専門とする。著書に『コンピテンシー活用の実際』『会社人生は「評判」で決まる』『ハイパフォーマー 彼らの法則』『仕事ができる人はなぜモチベーションにこだわらないのか』など多数。