新型コロナウイルス感染拡大でさまざまな業界で悪影響が出ているが、Zoomをはじめとしたオンラインミーティングアプリが爆発的に普及したり、Nintendo Switchが一時出荷停止となったりと、自粛生活に活用できる商品が人気だ。となると、今回のコロナ騒動が収まった後も消費者の行動に変化が生じそうな気配もある。
そこで今回は、“アフター・コロナ”後のビジネスチャンスについて、立教大学経営学部教授の有馬賢治氏に話を聞いた。
「まずは世界中で新型コロナウイルスの犠牲になられた方々に哀悼の意を表するとともに、医療関係等、必死に対応されている方々に心から敬意を表します。さて、アフター・コロナのビジネスチャンスについてですが、まず伸びることが予想されるのは“アウトホーム市場”ではないかと私は考えます。その理由は、緊急事態宣言で“巣ごもり消費”が増加し、家庭内での日常生活を長期的に強いられている現在、“インドア”の対義的なニュアンスでの“アウトホーム”に非日常を求める欲求が強くなっているからです」(有馬氏)
結果、家庭での日常から離れた非日常的な消費を求める消費が拡大する可能性が高くなるという。有馬氏の見解では、このアウトホーム市場はBBQや行楽地といったアウトドアのものばかりではなく、家の外部での食事や宿泊、映画、ゲームセンター、カラオケなど屋内娯楽も含んでいる。なかでも、今回の自粛中に散歩などで見つけた近隣地域での宿泊を伴う消費などは、新たなトレンドになるかもしれないということだ。
「アウトホーム市場の拡大と併行して、今回の自粛生活下で伸びた産業は引き続き注目を集めると思います。オンラインでの競技スポーツや音楽セッションなどのように、パソコンを通して他者と交われる新しいコミュニケーションのあり方を提案できれば、メディアの耳目を集めやすい状況も続くでしょう。
また、テレワークやオンラインミーティングが広く企業で推奨されることで求められるようになったオフィスチェアやヘッドセットなど、自宅で快適に仕事をするために必要なアイテムの需要が引き続き伸びることも予想されます。さらに、昨年の台風対策などもあり、近年自宅での備蓄意識が高まっているので、収納家具やアイデア雑貨など自宅生活において利便性のある製品を開発できれば、それも市場性があると思います」(同)
このような消費者の消費行動の変化は、企業にとっても変革のいい機会になる。
「社会生活での“ニュー・ノーマル”という言葉が流布し始めましたように、企業でもこれまでの商品展開の常識は今後大きく変わってくるでしょう。すると、慣例に縛られていない企画案が、新たに求められるようになってきます。その際に、今回のテレワークや自粛生活を経験した全社員の声を聞きたいという発想も出てくるはずです。
一方で、“働き方改革”以上にワークスタイルの変化へのインパクトは大きいと思われます。テレワークやオンライン会議だけではなく、企業として社員の経済基盤の担保のために副業を認める風潮が定着する可能性があります。すると、個人会社を設立して経営者の顔を持ちつつ社員として働くといった2つの顔を持つ労働者が増える可能性も想定できるでしょう」(同)
戦後、経済が豊かになるにつれて、国内では第三次産業に従事する人の割合が増えてきた。しかし、今回の新型コロナによって、生鮮食料品やマスクが購入しづらくなったことからも、国内の第一次、第二次産業がいかに海外に依存していたのかを痛感させられただろう。これにより国内の産業のあり方についても考え方に変化が生じそうだ。
「確かに食料や生活必需品が海外依存では危険だと感じた人は多かったはずです。シャープが自社製マスクの生産ラインを立ち上げたことを皮切りに、モノをつくるにも国内生産のほうがいいといった流れになることも考えられます。産業界である意味の“アンチグローバリズム”の時代になるかもしれませんね」(同)
我々の生活にあらゆる変化をもたらした新型コロナウイルス。まだ騒動は収まりきっていない今のうちに、その後の生活や社会を想像しておくと、アフター・コロナの世界を比較的うまく生きていけるのかもしれない。
(解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=武松佑季)