その後の南北朝の争乱で重要な湊川の戦いでは、1336年5月25日と日付まで挿入。そのほか、1コマくらいしか登場しない人物であっても、キャラクターの横に名前が記されていたり、情報量がとにかく多い。そして、定説が分かれるところでは、その旨も説明し、決めつけはしない。ただ、その結果としてKADOKAWA版に比べると読んでいてワクワクする感じには欠けている印象だ。
今回の休校を機に、どちらかのシリーズをセットで購入したという家庭も増えているだろう。ただ、どちらを選ぶかはなかなか難しい。歴史に興味があったり、探究心旺盛な子供なら小学館版を好みそうだ。しかし、そうでなければ、文字も多くふりがながあるとはいえ、難しい漢字も多用されるため飽きてしまう可能性があるので、KADOKAWA版のほうが好まれるのではないだろうか。
どちらのシリーズも一長一短ある。全体としては、バランスの取れた小学館版が優れているように見えるが、近現代史編になると様子が違ってくる。近現代史のなかでも満州事変以降終戦までは、どう描いても批判がきそうな難しいところだ。どちらのシリーズも気を遣いつつ、日本の掲げた「アジア解放」のような理想と現実、戦争責任を描いている。
南京事件はどちらも触れているが、ほかの戦争責任に絡む出来事ではKADOKAWA版は皇民化政策に多くのページを割く。対して小学館版は、「こうした日本軍の暴行を中国人は、のちに“三光作戦”と呼びました」などと、これまた表現に気を遣いながら記述をしている。いわゆる「慰安婦」に関しては、当初公開版では記述していたものの、記述のないバージョンに差し替えている。
近現代史は、成長の過程で必ず触れる機会の多い話題。ゆえに、子供に読ませるにはどちらが優れているかが判断材料のひとつになるだろう。
歴史の見方は多様であり、「これが正解」というものはあり得ない。だが、それを知るためには、まず基本的な事項が必須だ。
無料公開を機に、どちらかを買うべきかと考えている家庭は、人気や伝統という言葉に左右されるのではなく、まず親が読んでみることを薦めたい。
(文=昼間たかし/ルポライター、著作家)