
ドイツ人の家を訪れた日本人から「何故あんなに片付いているのですか?」と聞かれることがあります。確かに私がお邪魔するドイツ人の家も、モデルルームみたいにきれいで、日本のように「人をもてなす応接間やリビングだけをきれいにして、残りの部屋は物であふれている」という家は滅多にありません。
これにはドイツと日本の「住宅事情」も関係しています。ドイツの住宅は平均して日本よりも広めです。さらに一軒家には地下室(ケラー Keller)があるので、「普段使わない物を目につくスペースに置かなくて済む」という点は大きいと思います。集合住宅の場合も、全体の地下室に、日本で言うトランクルームのスペースが設けられています。
さらにドイツでは「人を家にあげ、“お家ツアー”をする文化」があります。来客に「これが書斎で、これが子ども部屋で、これが寝室で」と部屋を一つずつ案内するのが礼儀であり、昔からの習慣なのです。したがって必然的に「きれいな家」が保たれるというわけです。
「80代のうちの母は『スッキリした生活』に関するこだわりが徹底しているわよ」
そう教えてくれたのは50代のドイツ人女性で、彼女の母親は子どもや孫たちに「消え物以外のプレゼントを禁止している」のだとか。プラリネ(チョコレート菓子)やお花などをあげると喜ぶそうですが、それ以外は基本的に「物が増えるから」という理由で却下。消え物以外で喜ばれる唯一の例外は「孫の写真」とのことです。
「母は昔からとても現実的で、地に足がついた人。いわゆるセンチメンタルな感情とは無縁で、物を捨てる時も悩まずにサッと決断するから、高齢者には珍しいタイプかもしれない。母が亡くなったとしても、物が少ないので片付けには苦労しないと思うわ」
ドイツ人は誕生日やクリスマスにプレゼント交換をしますが、最近はこれもどんどんシンプルになっています。商品券だったり、その人が好きそうなテーマの本を選び、ラッピングはリボンだけということも。日々の生活の中で「環境保護」という意識が常に頭の中にある人も多く、「包装なしでリボンだけ」がデフォルトになりつつあります。
また最近は、現金をプレゼントすることもタブーではなくなりつつあります。ドイツのデパートや文房具店では現金を入れるための可愛いカード(ゲルトゲシェンクカルテ Geldgeschenkkarte)を見かけるようになりました。
ちなみにドイツには日本のような「旅先から職場の仲間や友達にお土産を買ってくる」という習慣もありません。もらうだけで使わない、いわゆる「ばらまき土産」のやり取りもないので、ますます家がスッキリしているのかもしれません。
ドイツではかつて、メモなどをファイルせずにそのままにしておくことはツェッテルヴィルトシャフト(Zettelwirtschaft)と言われ、揶揄と軽蔑の対象でした。ツェッテル(Zettel)とはメモなどを書いた紙キレのことであり、紙キレが机や部屋に置かれたままでどんどん増えていくカオスな有り様を指します。
昔のドイツでは、女性は花嫁修業も兼ねて家政学を学ぶことが多かったのですが、そこでも「ファイルできない紙キレは即ゴミ箱へ」と教育されていたほどです。