衰退から全盛期へ「ラジオ」が人々に愛される事情

盛り上がる人たち
なぜラジオ番組が大規模なイベントを成功させるほどの熱狂を生み出すことができるのでしょうか(写真:Fast&Slow/PIXTA)
SNS全盛の今、ラジオ番組がなぜ東京ドームに配信を含め16万人ものリスナーを集めるほどの人気を誇っているのでしょうか? その秘密は、ラジオならではの「深く狭く届ける力」にあります。リスナーに寄り添い、日々の放送を通じて築かれた強い絆が、リアルな空間で爆発的な熱狂へと変わるのです。
 
今、ラジオ全盛期。 静かな熱狂を生むコンテンツ戦略』の著者であり、オールナイトニッポンの統括プロデューサーである冨山雄一氏は、「リスナーの盛り上がりが可視化されること」が、イベントの最大のメリットだと語ります。
 
本記事では、なぜラジオ番組が大規模なイベントを成功させるほどの熱狂を生み出すことができるのか、その理由についてひもといていきます。
 

“究極の内輪”というエンタメ

ラジオならではの「狭くて深い」リスナーの熱量を、いかに最大化させていくか。

2018年4月にオールナイトニッポンのプロデューサーになったときに、常に頭にあったのがこの問いでした。そして、明確に打ち出した方針のひとつが「1つでも多くの番組をイベント化すること」でした。

番組開始から1~2年後には、何らかの形でリスナーが参加できるイベントを企画するという方針です。

ナインティナインやオードリーなど、すでにイベント化が先行していた番組の成功例に立ち会っていた僕は、ここにラジオの未来があると直観したのです。

普段の放送では、各地に散らばっているリスナーが1つの会場に集まって、同じ空間で同じものを見て聴いて、感動を分かち合う。番組のリスナーにしかわからない“究極の内輪”というエンタメを一緒に体験する時間を提供する。

ラジオ番組のイベントといえば、「ニッポン放送の地下2階のイマジンスタジオで開催する公開収録に、100人を無料招待します!」というパターンが通例でしたが、トップアーティストが何年も前から押さえるような大会場で、しっかりとチケット代金もいただいて、凝った企画をこれでもかと投入する。

そんな新しい挑戦を喜んでくれるリスナーは、想像をはるかに超えて多かったのです。

僕がニッポン放送に入社した2007年には、まさか1つの番組のイベントが東京ドームで5万3000人集め、ライブビューイングを合わせて全国16万人も動員するなんて、想像もしませんでした。

たくさんのリスナーが喜び集まってくれると、自然と応援してくれるスポンサーも増えていきます。イベント会場での協賛ブースやスポンサーからのお土産が詰まった紙袋を渡すことなど、周辺の状況もどんどん充実していきました。

方針に沿う形で、佐久間宣行さんは1年目で下北沢の本多劇場で、CreepyNutsも2年目で中野サンプラザでのイベントが実現しました。

イベントで可視化される「静かな熱狂」

もちろん、イベントの企画や準備にはかなり手間がかかりますが、大きなメリットとして「リスナーの盛り上がりが可視化される」という効果があります。

名だたる会場でイベントが盛り上がっている様子が写った写真がSNSで流れたり、シェアされたりすることで、また、イベント前後の反響が話題になったりすることで、リスナーの熱が伝播していくのです。

「盛り上がりの可視化」は、ライトリスナーをコアリスナーに変えるきっかけになります。

ラジオを聴いたことがない人にオールナイトニッポンを知ってもらうためのイベントだったら、全然違うものができあがるはずです。

しかし、目指すべきは番組を楽しみに聴いてくれるリスナー、応援してくれているリスナーの期待に応え、驚かせて、喜ばせることです。