
「これだけの損失になるとは。今期はどうにか黒字を維持できるとしているが、来期は確実に赤字に転落するだろう」
元タレントの中居正広氏が起こした女性トラブルに関する『週刊文春』報道で揺れるフジテレビジョン。親会社のフジ・メディア・ホールディングス(HD)は1月30日、2025年3月期業績見通しを下方修正した。発表された数字を見て、ある市場関係者はこのように語った。
傘下のフジテレビでは一連の騒動を受け、広告主が自社のテレビCMを見合わせ、ACジャパンの公共広告に差し替えたり、出稿をキャンセルしたりといった影響を受けている。
こうした広告についてフジテレビは、「広告主と築いてきた信頼関係を維持し、今後早期に広告の発注を再開していただくため広告料金を請求しない方針」を打ち出している。
「CMストップ」の影響でフジテレビの広告収入は、全国で放送する特定の番組に対するCMのネットタイム広告が期初に予想していたより108億円落ち込む。番組を特定しないスポット広告も予想比で120億円減る。
広告収入全体では、期初予想より233億円少ない1252億円(2024年3月期対比15%減)になる見込みだ。
フジ・メディアHDの売上高は従来予想より501億円少ない5482億円(同3%減)に、営業利益は173億円少ない180億円(同46%減)に、純利益は192億円少ない98億円(同73%減)に修正した。期初予想と比べた落ち込み幅は営業利益で49%減になる。
「震災などで全局のCMがACジャパンに差し替わることはあったものの、1局だけ止まるのは初めての経験。期末までの3カ月弱で営業利益が従来予想より49%も減少するとは驚きだ。CMがほぼすべて止まる影響は甚大で恐ろしい」。別のテレビ局幹部は戦々恐々とする。
とはいえ、ある信用調査会社の幹部は、「フジ・メディアHDに確認したところ資金は潤沢にあり、資金繰りに問題はないとの回答だった。倒産といった事態は想定していない」という。
そもそもフジテレビ単体は厳しい状況だった。しかしフジ・メディアHDは、フジテレビを中核とする「メディア・コンテンツ事業」のほかに、サンケイビルなどの不動産事業、ホテル事業、神戸須磨シーワールドなどの観光事業を展開している。こうした「都市開発・観光事業」は絶好調なうえ、全社営業利益の過半を占める。
そのため、フジテレビの事業が大きなダメージを受けても、放送外事業でカバーすることができるポートフォリオになっている。すぐさまフジ・メディアHDの経営が危ぶまれるということはない。
しかし、「影響はこれだけでは収まらないだろう」(キー局幹部)との見方がもっぱらだ。
というのもスポンサー企業の多くは、「少なくても3月末に予定されている第三者委員会の調査結果を見てから判断する」としている。3月末までの広告復活はあり得ない。
さらに「調査結果が曖昧だったり、フジテレビが明確な信用を取り戻す施策を打ち出すことができなかったりした場合には、さらに長期間CMがストップしてしまう事態も十分ありうる」(同)。そうなった場合、来期2026年3月期決算は大幅な赤字に陥る可能性が濃厚だ。
フジテレビの系列局も経営に大きなダメージを受けることは確実だ。1月31日配信の『フジ系列は何位?テレビ局「営業利益」ランキング』のデータでもわかるように、大半のテレビ局の台所事情はそもそも苦しい。
信用を培うのには長い時間を要するが失うのは一瞬だ。
「『週刊文春』が女性トラブルへの社員の関与について記事を一部訂正したが、フジ・メディアHDがコンプライアンス面やガバナンス面で問題を抱えていることには変わりはない。信用を取り戻すまでの間、フジテレビの再建は厳しいと言わざるをえない」。業界からはそんな声が聞かれる。