緊張する場で平常心が保てる人・保てない人の差

緊張
どうすれば、平常心を保つことができるのでしょうか(写真:perfecta/PIXTA)
真面目な人や繊細な人ほど、人前に出ると緊張したり、アガってしまったりして、本来の実力を発揮できないことがあります。男女を問わず、こうした悩みを抱えている人はたくさんいると思います。
どうすれば緊張せずに、本来の自分でいられるのか? どうしたら焦らずに、本領を発揮できるのか? 精神科医の和田秀樹氏が、精神医学や心理学の視点から、新刊『仕事も対人関係も 落ち着けば、うまくいく』をもとに、3回にわたり解説します。

平常心を保てない理由とは?

平常心とは、普段通りの落ち着いた心の状態を指します。平常心を保てれば、緊張するような場面でも、リラックスして本来の実力を発揮することができますが、平常心でいるというのは、意外に難しいことです。

私たちの日常には、感情を高ぶらせる要素があふれているため、ほんの少しのことで、気持ちが落ち着かなくなるからです。

どうすれば、平常心を保つことができるのか? ここでは、緊張したり、不安な気持ちになる「心の仕組み」(心理メカニズム)に焦点を当てます。平常心を保てないのは、周囲の人たちではなく、実際には自分の考え方に原因があることがほとんどです。

私が精神科医として用いている治療法のひとつに「森田療法」があります。森田療法とは、精神科医の森田正馬先生によって創始された精神療法で、不安や恐怖を排除するのではなく、「あるがまま」に受け入れることによって、症状の安定化を目指すという療法です。

森田療法では、不安が強い人というのは、「欲望」が強い人と考えられています。

会社の健康診断を受けて、何かの項目で引っかかったら、あなたはどうしますか? 血圧が少し高いとか、尿酸値がわずかに上がったときの反応は、大きく2つに分かれると思います。

「これは大変だ!」と慌てて病院に駆け込む人もいれば、「少しくらい数値が高くても大丈夫だろう」とノンビリと構えている人もいます。

大慌てで病院に行く人は、「健康でなければならない」とか、「すべての数値が正常であるべきだ」と考えていますから、少しの数値の変化に動揺して、すぐに不安な気持ちになります。

「多少の問題があっても、気にする必要はない」と考える人は、気持ちが焦ることはなく、不安になることもありません。森田療法では、この違いを「生」に対する欲望の差……と考えています。

「生」に対する欲望が強ければ強いほど、「死」に対する不安が強くなります。「まだ死にたくない」とか、「死ぬのは怖い」と考えるから、健康診断の結果に動揺して、不安な気持ちになります。

極端なことをいえば、「いつ死んでもいい」と思っている人であれば、死の不安を感じることはないのです。「生」に対する欲望が極端に強いことが、不安になる原因の1つといえます。

人に嫌われてもいいと思えば、緊張は和らぐ

入学試験のケースで考えてみると、試験に落ちるのが不安で仕方がない人というのは、絶対に合格したいと思っている人です。「合格したい」という欲望が強いから、「不合格になったら、どうしよう……」という不安を抱え込むことになります。

同じ学校を受験しても、それが「記念受験」(合格する見込みがない、記念のための受験)であれば、緊張や不安を感じることなく、気楽に臨むことができるのです。

健康でありたいとか、希望する学校に合格したいという思いは誰にでもありますから、緊張したり、焦ってしまうことを良し悪しで考える必要はありません。大事なのは、自分の欲望が強いから、不安になるのだな……という心の「仕組み」を理解して、前向きな気持ちで不安と向き合えばいいのです。