上手な断り方は、単に相手の依頼を拒否するのではなく、相手との信頼関係を保ち、円滑なコミュニケーションをサポートしてくれます。
一方で、損する伝え方では余計な説明が必要になったり、話がこじれたりします。
この違いは、どこにあるのでしょうか。
それは、周辺情報をきちんと伝えられているかどうかです。あなたがどういう状況にあるのか。どういう根拠で決断したのか。決断の背景には、どんな考えがあったのか。仕事への価値観は何なのか。こうした周辺情報を伝えないままただ断ってしまうと、相手は不安や偏見によって勝手な推測を始めてしまいます。
「自分の説得が足りないんじゃないか」「本当はやってみたいけど、不安が拭い切れないだけであと一押しなのではないか」と相手が思い始めてしまうと、ズルズルと長引いてお互い疲弊してしまいます。
相手の妄想にブレーキをかけてあげるには、根拠や背景を伝えて、相手が妄想するような余白を先に埋めてしまうのです。断る際の言葉選びやコミュニケーションの方法次第で、相手に与える印象や感情に大きな違いが生じます。
断り方の基本は、具体化です。具体的な理由や状況を説明することで、頼む側はあなたの判断の裏付けができ、断るという結論に至った過程を知ることができます。
「今すぐは難しいです」と曖昧に断るのでは、「じゃあ今すぐでなければいいのか」と相手は依頼を引き受けてもらう前提で代案を考え始めてしまうでしょう。そうではなく、「来週の木曜に重要な提案があるので、それまでは対応する時間が取れません」と伝えるわけです。
どれだけ今忙しいのか。いくつタスクを抱えているのか。他の仕事の進捗率はどれくらいなのか。どれほど難しい議論を別で進めているのか。そうして根拠や背景を伝えても、相手がなかなか折れてくれないときもあります。依頼者は、あなたが引き受けてくれる未来を想像しています。いわば、ポジティブな未来に脳内が偏っている状況です。
そんな相手にとっては、壁であるはずの根拠や背景も「その気になればなんとかできるもの」に見えているのかもしれません。そんな目線の相手には、断っても断っても気持ちの変化が起こりません。むしろ、ポジティブな未来へ辿り着けるようより強くアクセルを踏ませてしまうだけです。
断る際には、無理して頼んだ先の「マイナスな未来」を相手に想像させることが効果的です。具体的なリスク、問題点を説明することで、相手は自らの依頼が現実的でないことを理解し、その結果を想像するようになります。
「ルール上、できないんです」では足りません。「ルールに違反してしまうので、取引先にまで迷惑がかかります」といったようにマイナスな未来を共有することで、相手もあなたと同じように状況を検討できるようになります。
了承できない背景を、あなたにはどうしようもできないような周辺への影響まで伝えていくことで、相手も客観的に状況判断が下せるはずです。
さあ、まだ相手が引き下がってくれません。時間を空けて、再び依頼を持ちかけられることもあるでしょう。あなた自身も、なんだか申し訳なくなっているかもしれません。断る側こそ、メンタルを消耗してしまうからです。