インターネットの黎明期にシリコンバレーで起業するも、ビジネスがうまくいかず、悩んでいた『すごい会議』著者の大橋禅太郎さんの会社に、投資家に紹介されてやってきたユダヤ人のマネージメントコーチ、ハワード・ゴールドマン。コーチングに後ろ向きだった大橋さんですが、会社幹部に説得されて、会議に参加します。
1室に集められた会社の幹部たちが、ハワードから次々と投げかけられる質問に回答するうちに、直面している問題が明らかになっていきます。そして飛び出した、まさかの「ひどい真実」とは――。
ハワードによるマネジメントのコーチングは続く。
「では次の質問は『会社全体そしてマネジメントチームとして直面しているチャレンジに関して、どんな問題点や懸念があるか。最も重要と思うことを2、3個書いてください」
それぞれが、問題や懸念を1人ずつ発表するのだが、ハワードは発表するたびに、「では、それを『どのようにすれば~~か?』の疑問文に言い換えてくれ」と言った。
・資金が足りない
・現行の製品が売れていない
・次の製品のプランがない
こう書いた僕の場合でいえば、次のようになる。
・「資金が足りない」→「どのようにすれば資金を得られるだろうか?」
・「現行の製品が売れていない」→「どのようにすれば製品が売れるか?」
・「次の製品のプランがない」 →「どのようにすれば製品のプランをつくれるか?」
ここで少し、僕が後に、ある渋谷の成長中の会社のコーチングをしたときの話をしよう。
仏頂面の総務部長がいたが、彼は僕を少し斜めに見ながら、「会社が面白くないのが問題です」と言った。僕はハワードがそうしたように、「では、それを『どのようにすれば~~か?』のかたちに言い換えてください」と言った。
彼が答える。「どのようにすれば会社が面白くなるか?」。
僕は彼に聞いてみた。「その疑問形にしたら、なにが変わりましたか?」
彼は「そんなこと考えたことなかったです」と答えた。
たぶん彼は、会社が面白くない理由を説明するのは上手だったと思う。しかし、「どのようにすれば」の質問文にしたら、初めて答えを考えてしまった。
僕は一言も答えを考えてくれとも言ってないし、ましてや僕にそれを言ったからといってボーナスが上がったり、評価が上がったりするわけではない。それなのに、答えを考えてしまった。
「できない説明ではなく、解決策を言ってほしい」というのは、すべての経営者が社員に対して求めていることだが、それを手に入れられる経営者は多くない。
ところが、「どのようにすれば」と言い換えただけで、その状況がいとも簡単につくれてしまったのである。
僕は彼に言った。「質問のかたちにしたら、答えを考えてしまったわけですね?」
彼は「はい」と答えた。
「じゃあ、もっと面白い質問のかたちにすれば、もっといろんな人が考えたりしてくれるかもしれませんね」と僕。