「あえて仕事しない」が日本でも当たり前になる日

一般社団法人キャリアブレイク研究所の代表を務める北野貴大さんは「キャリアブレイクを後押しすることは、企業や社会にとってもメリットがある」と語る
病気、育児、介護、学業などによる離職・休職期間は、日本では「履歴書の空白」と呼ばれ、ネガティブに捉えられてきた。しかし、近年そうした期間を「キャリアブレイク」と呼び、肯定的に捉える文化が日本にも広まりつつある。
この連載では、そんな「キャリアブレイク」の経験やその是非についてさまざまな人にインタビュー。その実際のところを描き出していく。

これまで日本企業では、離職や休職により社員が会社から離れることは組織にとってネガティブな出来事と捉えられることが多かった。新卒一括採用、終身雇用を前提とする組織では、それを乱すような動きはときに組織運営上のノイズのようにもみなされがちだ。そうした空気を感じ取る社員の側も、離職や休職には慎重にならざるをえない面がある。

しかし、2024年1月に出版される『仕事のモヤモヤに効く キャリアブレイクという選択肢』の著者であり、一般社団法人キャリアブレイク研究所の代表を務める北野貴大さんは、「仕事から一定期間離れること、すなわちキャリアブレイクを後押しすることは、企業や社会にとってもメリットがある」と語る。

いったいどういうことなのか、話を聞くことにした。

多くの人がキャリアブレイクを経験している

一定期間仕事や会社から離れるキャリアブレイクの文化が今、欧米で広まっている。一方、日本ではまだ一般的ではなく、ポジティブにも捉えられていない。

しかし、「日本でもかなりの数の人が、キャリアブレイクを経験している」と北野さんはいう。

あくまでも概算で、全体像を掴むためのざっくりとした数字として認識してほしい、と前置きしたうえで、「1年で147万人もの人が、キャリアブレイクを行っていると推定できる」と教えてくれた。

算出方法はこうだ。2020年の転職者のうち、離職から次の職場に就職するまでの期間は「離職期間なし」が26.1%。残りの73.9%は、大なり小なり離職期間を経験している。

中には、次の会社に転職するまでに少しだけ休憩期間を取る人もいるはずだが、1カ月以上の離職期間を設けた人に絞ったとしても、全転職者の46.3%にのぼる(厚生労働省の「令和2年転職者実態調査の概況」より)。

同じ年の転職者数は319万人なので、1カ月以上の離職期間を持った人は147万人と推定される。単純計算すれば、常用労働者5100万人の約35人に1人。繰り返すように、この数字はあくまでも概算であり、休職者は含まれていないが、キャリアブレイクを経験する人は日本でも決して少なくないことが見えてくる。

「怠けている弱者」という誤解

ただし日本においては、欧米に比べてそうした人に対するスティグマ(偏見)が根強く存在すると北野さんは指摘する。

「欧米では、採用の際に履歴書に空白があってもネガティブに捉えられることはあまりありません。一方、日本では『怠け者』や『社会的弱者』『経済活動に向いてない人』と思われ、企業からも厄介者扱いされることがある。だから、個人もあまりその期間の経験を語ろうとしないのです」

「怠け者」「弱者」という画一的なイメージで捉えられがちなキャリアブレイク経験者。だが、実際には病気の治療や仕事探し、学び直しや留学など、その経験は多様だ。

北野さんは、キャリアブレイクを4つの型で整理している。

1つ目は「ライフ(LIFE)型」。怪我や病気による療養期間や、妊娠、出産、介護などのライフイベント、また家族のケアのための休職や離職を指す。

2つ目は「グッド(GOOD)型」。自分の特性に合ったよりよい仕事や働き方を実現するために、休職や離職を使って、心身の改善や自分の客観視に取り組むのがこのタイプだ。