「音楽サブスクリプションはもうからないのか」
この話題がSNS上などで定期的に議論を巻き起こすのは、音楽業界の構造変化を象徴しているからだ。音楽ファンの行動も、アーティスト側の販売戦略も、CD全盛期から様変わりしている。
テレビのタイアップはもちろん、TikTokといったSNSの投稿やユーチューブで楽曲に出合い、サブスク(ストリーミング)を利用して聴く。CDやダウンロードで購入し、所有する。音楽ライブに参加するファンもいる。
また、複数のアーティストが出演する「音楽フェス」で知ったアーティストの楽曲を、サブスクやユーチューブで聴く。SNSでシェアするなど、近年の音楽ファンの行動は多様化、複雑化しているのだ。
基本的に、CDでもサブスクでも、作詞家や作曲家は著作権を保有する「音楽出版社」との契約に基づいて、販売数や再生数に応じた「著作権使用料」の分配を受ける。
アーティストはレコーディングした音源に関する権利「原盤権」を持つレコード会社などとの契約によって、アーティスト印税を分配されている。アーティスト自身が作詞、作曲も手がける場合は著作権使用料も入ってくる。
サブスクの著作権使用料は、プラットフォームの収入が原資となる。サービス全体に対して楽曲の再生時間が占める割合から使用料が決まり、著作権管理団体へ支払われ、手数料を差し引いて音楽出版社へ。そして作詞家・作曲家に分配されるという流れだ。
1990年代や2000年代など、CDが音楽業界の中心だった時代は、売上枚数が最も重要な指標だった。そのため、「発売日までにどれだけ盛り上げられるか」が勝負どころだった。
ところが、CDは98年の生産金額5878億円をピークに減少し、21年には1232億円まで縮小した。ダウンロードも同様に縮小傾向が続く。一方、国内で15年に本格始動したサブスクは21年に743億円まで拡大している。
サブスクの場合、サービスの規模などにもよるが、CDやダウンロードと比べて1曲当たりの使用料は低くなる。アーティストや作家が稼ぐためには、楽曲を長く聴き続けてもらい、再生回数を積み重ねる必要がある。
ただし、数千万曲をそろえるサブスクの競争環境は厳しく、優れた楽曲でも埋もれがちだ。
そこで、アーティストは音楽番組への出演をはじめ、SNSで自ら情報発信をしたり、一発撮りのユーチューブチャンネル「THE FIRST TAKE」でパフォーマンスを披露したりするなど、発売後も話題を提供し続ける努力が必要になってくる。
多くのファンを抱えるベテランアーティストでも、ファンの年齢層が高く、情報発信も弱ければ、再生回数は伸ばせない。「誰もが知るアーティストも、人気を維持することは本当に大変」(レコード会社関係者)なのだ。
しかし、業界の変化はデメリットばかりではない。サブスクによって、ファンは無数の楽曲を聴くことができるようになった。世界中の音楽ファンも日本のアーティストの楽曲を聴くことができるなど、音楽との出合いの場は格段に広がっている。タイアップも従来のテレビや映画に加えて、ネットフリックスなどの動画配信が存在感を増している。
実際、映画『ワンピース フィルム レッド』の主題歌である「新時代」(Ado)は22年、アップルミュージックのデイリーチャート1位にランクインするなど、世界中で注目された。
また、アーティストとファンの双方でユーチューブやTikTokなどの活用も定着している。例えば20年には「香水」(瑛人)が、22年も「W/X/Y」(Tani Yuuki)がTikTokを起点にヒットした。
両方とも、リリースから半年以上の時間を経て注目された楽曲だ。若いファンが楽曲を用いて投稿し、流行を生み出すケースが増えており、TikTokは今やヒットの導火線だ。音楽業界のあり方を根本的に変えつつある。
音楽ライブもアーティストの活動には欠かせない。毎年市場を拡大し、19年には3665億円(コンサートプロモーターズ協会調査)まで成長を遂げた。
ライブはチケットだけでなく、グッズの売り上げも活動を支える重要な収入源になっている。コロナ禍ではほぼすべてのライブが中止に追い込まれたが、22年以降は徐々に再開され、正常化へ向かいつつある。
スマホやSNS、動画配信の台頭などで「娯楽の多様化」が進む中、現在の音楽業界に90年代のような存在感はない。しかし、ファンはCDを購入するだけでなく、幅広く音楽を楽しんでいるのも事実だろう。
さまざまな場所に広がる商機を、楽曲の購入(所有)や利用、体験に結び付けられるか。これこそ現在の音楽シーンでもうけるうえでの重要ポイントだ。