「悪い上司」「いい上司」と働く部下、意外な実力差

(写真:ペイレスイメージ/PIXTA)
上司が何も教えてくれない、明確な指示を出さない、部下の失敗の責任を負わない……とても「いい上司」とは言えないが、実は「地頭力=自分で能動的に考える力」をつける上では、最高の環境だ――。そう指摘するのは、ビジネスコンサルタントの細谷功氏だ。最新刊『今すぐできて、一生役立つ 地頭力のはじめ方』より、「悪い上司」のもとで働いたほうが望ましい理由を説明する。

「いい上司」は本当にいい上司か?

「職場や学校で?いい上司?(または先生、先輩)に恵まれている」。こう言えるあなたは、とっても幸せな人です。そのような環境は、自分から望んでも簡単に手に入るものではありません。しかし、実はその幸せな環境が「自分で考える」という行為にとっては、逆に不幸な環境といえます。

そもそも、「いい上司」とはどんな人のことでしょうか。

・部下であるあなたのミスを補ってくれる。
・あなたの失敗の責任を取ってくれる。
・不足している業務知識や情報を適切に補ってくれる。
・あなたの言うことをきちんと聞いて理解してくれる。
・あなたのことを高く評価してくれる。

ざっと、こんな人ではないでしょうか。

さて、ここで考えてみてください。失敗したらだれかが責任を取ってくれるという環境で、真剣に考えて結論を出すでしょうか? 簡単に手に入れることができた情報を大事に思うでしょうか? あるいは、同じような場面に遭遇したとき、ひとりで対応できるでしょうか?説明不足の資料や言葉足らずの説明でも、推し量って的確に理解してくれる人と仕事をしていて、あなたのコミュニケーション力は上がるのでしょうか?

コミュニケーション力を上げる最良の方法は、通信教育の教材で勉強することでもプレゼンテーションの練習をすることでもありません。それは「こちらの言うことを理解してくれない人」と付き合うことです。

「理解力の高い人」と付き合っていても絶対にコミュニケーション力は上がりません。自ら考えて努力する必要がないからです。自分自身のことを実体以上に高く評価されてしまったら、もっと高いレベルに達するための努力をやめてしまうのではないでしょうか。

世にいう「いい上司」とは、部下にとって「都合のいい上司」にすぎないのではないでしょうか。都合のいい上司は、知識力を着実につければよい時代には確かに「いい上司」だったかもしれません。しかし、地頭力をつけようとするあなたにとっては、「いい上司」とはいえません。

下図に示すように、ある意味真逆となります。

したがって、こう考えましょう。「悪い上司に当たったら絶好のチャンスである」。もちろん、こういう上司が、「人間として」または「組織人として」よいか悪いか、あるいは、あなたの精神衛生上どうなのかについては別問題である、ということを付け加えておきましょう。

「恵まれた環境」は要注意!

もともとトレーニング環境が整っている場合があります。たとえば、会社の教育環境が整っていて、いつでも好きなトレーニングが受けられるようになっていたり、会社が補助金を出してくれたり、自ら何もしなくても自分に適したトレーニングコースが用意されているような「恵まれた」会社にいる人も要注意です。「自ら考える姿勢」を殺すのにこれほど適した環境はありません。

学習意欲の高い人にとっては、恵まれた教育環境は歓迎でしょう。しかし、そんな場合でも、手放しで喜べません。むしろ警戒すべきだと思います。最初は学習意欲が高かった人でも、恵まれた教育環境が用意されてしまうと、「学びたい」というハングリー精神がそがれていきます。やがて、「自ら考える」という地頭力にとっていちばん重要な「姿勢」を弱めてしまうという皮肉な結果になりかねません。