聞くことが大事とはよくいわれますが、実際にちゃんと聞くとどんな効果があるのでしょうか。
こんな話から始めましょう。
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ソリの合わない上司がいて、ことあるごとに意見がぶつかっていたんです。
別に嫌いなわけじゃありません。でも、納得できないことは何度も説明しますよね。時には口論になることもありました。
どれだけ丁寧に説明したつもりでも「いや」「でも」の応酬。次はどう話そうかと考えているうちに、疲れてしまって、一度、黙って聞いてみたんです。
すると驚きました!
次第に上司が穏やかになる。どんどん口調が柔らかくなる。
おまけに「そうか」「たしかに」などと1人で納得したかと思うと、ついには「俺も間違っていた」「お前の言うこともわかる」と勝手に反省まで始めました。
最後は「話せてよかった。ありがとう」って……。
あんなに必死に話してもダメだったのに、不思議と問題が解決したんです。
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どうですか?
無理して相手を好きになるわけでも、我慢して話を合わせるわけでも、必死に相手を説得するわけでもありません。
「聞く」を意識するだけで、状況が一変したわけです。
ここで思い返してみてください。
今日、あなたは誰と会話をしましたか? そして「よし、ここは聞くことに徹してみよう」と決めて、聞いてみた瞬間があったでしょうか。
あなたの生活のいたるところに、もっと「聞く」チャンスがあります。
こんなシーンで、もし何かうまくいっていないのだとしたら、「聞くスイッチ」を入れるだけで劇的に事態が好転する可能性があります。
あなたが「聞く」ことで、テコでも動かなかった相手が動き出したり、頑なだった心が開かれたり、誰かの悩みがすっきりしたりすることがあるのです。
実はこれは、話を聞くプロである心理カウンセラーがやっていることと、とてもよく似ています。カウンセラーの「聞く技術」も、根っこにあるのは、まず黙って相手の話を聞くことです。
先ほどのエピソードを心理学(心理療法)的に説明するならば、徹底して聞くことで上司は「受容」と「共感」を感じられて、自然と考えが整理されて上司の中で「自己一致」が起こり、発言や行動が変わったのです。
聞き手の役割は、相手を受け入れる、認めることから始まります。
それが、相手の心を開くことになり、話しやすい雰囲気をつくることになります。
最近、企業の組織論の中で「心理的安全性」が重要視されています。
心理的安全性とは、組織行動学を研究するエドモンドソンが提唱した心理学用語で、ほかの人が自分の発言を否定したり、拒絶したりしないと安心できることです。心理的安全性を高めるとは、要するに躊躇せず何でも言える状態にすることといえます。