日本人がメタバースの勝者になりえる3つの強み

日本のIT暗黒時代、再興のカギはメタバースにあり?(写真:Graphs/PIXTA)
メタバースという言葉を知っていますか?
オンライン上のデジタル空間を指すメタバースは、1992年にSF作家ニール・スティーヴンスンが発表した『スノウ・クラッシュ』という小説に初めて登場しました。これが後に、数多くの起業家にインスピレーションを与え、インターネットに続く新たな経済圏として世界的なバズワードになっています。
フェイスブックから名前を変えた「メタ」を筆頭に、多くの世界的な企業がメタバースに注力する現在、日本企業にとって勝機はあるのでしょうか? 『メタバース さよならアトムの時代』の著者・加藤直人氏は、「日本の強み」を3つ挙げます。重要な鍵は、これまでソーシャルゲームを作っていた人材です。
前回:現実に絶望する人がメタバースに夢を託せる理由(4月12日配信)
前々回:メタバースとFF14が「似て非なる」決定的な根拠(4月5日配信)

優秀な頭脳と技術を持った人が作っていたソシャゲ

僕が育った平成の30年間は、日本にとっては間違いなく暗黒時代だった。

GDPは横ばい、名目賃金上昇率はなんとマイナスだ。Made in Japanの栄光は見る影もなく、グローバルでは、IT産業における日本企業の存在感はないに等しいというのが現実だ。

しかし、令和になって以降、この国の変化への意志に希望を持っている。そしてメタバースが今の日本の状況を打破するきっかけになる──そう僕は信じている。

その理由をこれから述べていこう。

①ゲーム産業のスキルセットを転用できる

日本は世界的に見てもゲームに強みを発揮してきた国だ。2010年代はスマホ全盛の時代だった。スマホの時代に日本のIT産業は何をしていたかと言うと、ソシャゲ(ソーシャルゲーム)を作っていた。

その間に、海外では民宿のシェアリングサービスのAirbnb(エアビーアンドビー)やタクシー代わりにクルマとドライバーを配車するUber(ウーバー)が生まれ世界を席巻している。どちらのサービスもアメリカ発だ。基本的にスマホ時代を牽引するIT企業はアメリカと中国を中心に多数生まれた。

日本もメルカリやスマートニュースがグローバルで戦っている。しかし、グローバルに挑戦したい、グローバルに世の中をよくしようというスタートアップ企業の絶対数がまだまだ少ない。

過去10年を振り返って日本にとって痛かったのは、IT産業に集まった優秀な頭脳と技術を持った人たちが高い給料をもらいながら作ったのがソシャゲだったことだ。ドメスティックな価値しか持たないガチャを設計していた。これが日本の現実だ。ふたを開けてみたら、この10年間で世界的に使われている日本のスマホアプリは何ですか? という問いに1つもあがって来ないという結果に終わった。

でも逆に言えば、これからが逆襲のチャンスだと僕は考えている。

ソシャゲ作りの経験がそのまま生きる

スマホ向けにゲームを作っていた人材のスキルセットは、実はメタバースを作るのに使えるからだ。ゲームエンジンを駆使し、キャラクターを量産し、演出を作る。その経験が生きてくるのである。しかも3Dコンテンツを、スマホというスペック的にシビアなデバイスの上で作っているのだ。快適な体験が重要なメタバースにおいてそのチューニングにかけた経験はとても貴重だ。

一方、シリコンバレーはこれからメタバース人材の不足にあえぐはずだ。フェイスブックはメタと改名し息巻いているが、メタバース産業を牽引している技術アセットはゲーム産業のものなので、スマホでネイティブアプリを作っていた開発者を転用しづらい。