池上彰、親が思う"いい会社"が要注意である理由

親が子どもたちに教えられる、「仕事」に対する“基本的視点”とは?(写真:Mills/PIXTA)
法律の改正で4月1日から「18歳」に引き下げられた成年年齢。これにより、18歳からは親の同意なしに「ローンを組む」「賃貸物件を契約する」といったことも可能になった。
そんな時代に突入した今、親である私たちは“大人の先輩”として子どもたちに何を教えていくべきか。契約の仕方など実務面の知識ももちろん大事だが、それ以前に、今の世の中を渡るために最低限知っておくべき“仕組みやルール”こそ、親として伝授すべきではないのか。この記事では、新刊『これから大人になる君たちへ 学校では教えてくれない未来を生き抜くヒント』を監修した池上彰氏に、「仕事」に対する“基本的視点”をわかりやすく解説してもらった。

なぜ働かなければならないのか?

子どもはいずれ学校を出た後、各個人で時期は違えど、ほぼ働くことになりますが、「なぜ働かなければならないのか?」というそもそも論を考えたとき、その理由は主に2つ挙げられます。私たち大人は、少なからず“身にしみて”その理由を知っているでしょうが、子どもは大人になって働くようになって初めて、働く理由のリアルを感じていくことになるはずです。

働く理由の1つ目は「生きていくため」です。人は働くことにより、給料(または報酬)という形でお金を得ます。そのお金で食べ物や衣服を買ったり、家賃などを支払ったりします。自分だけではありません。家族がいれば、家族が生活するためのお金も働いて得なければなりません。

池上彰氏(画像提供:KADOKAWA、撮影:関野温)

そして2つ目は「生きがい・やりがいのため」。働くことで自分自身を成長させ、自分の希望を叶えるのです。人間は、社会の中で誰とも関わらず1人だけで生きていくのはなかなか難しい。だから、働くことでモノやサービスを生み出し、それを受け入れられた対価としてお金を得ることになるわけです。

たとえ目の前に「ありがとう」と言ってくれる人がいなくても、働いてお金をもらえるということは、つまり、自分の仕事に感謝してくれる人が間接的にでもいる、ということなのです。

もちろん、お金を稼ぐのは「自分のため」でしょう。でも実は、家族や社会など「自分以外の誰かのため」に大人は一生懸命働いている。人は社会に出て働くことで、責任ある「社会の一員」になっているのです。

人に喜んでもらえて自分の生活が成り立つ、そんな意味のある仕事をこれから大人になっていく子どもたちがちゃんと見つけられればもちろんこのうえないのですが、親である以上、自分の子がいざ働くという局面になった際、“大人の先輩”として自分自身の経験を説得力を持って伝えるためにも、まずは私たち親自身が「働く理由」についてしっかりと振り返っておく必要があるでしょう。

そもそも「いい会社」とは?

ところで、「いい会社」と聞いて、どんな会社をイメージするでしょうか。親なら、子どもに「将来いい会社に入れるといいけれど」などと言ったおぼえがある方は少なくないはずです。でも、よく言う「いい会社」とはいったいどんな会社なのか。給料をたくさんもらえる会社でしょうか、それとも誰もが知っている有名企業でしょうか。

まず、給料が高い会社は時代によって違ってきますし、人気のある会社も同様です。例えば、第2次世界大戦が終った頃には石炭関連の会社が人気でした。当時、石炭は「黒いダイヤ」と呼ばれ、産業の発展になくてはならないものだったからです。

数十年前には、多くの人が銀行に入りたがりました。しかし、厳しい経営に直面し、リストラに踏み切るところも増えました。また、旅行会社や航空会社なども人気でしたが、新型コロナの影響で国内外の移動が制限されたりしたこともあり、旅行・航空業界は大きな危機に立たされました。