「配属ガチャ」「上司ガチャ」が何とも不毛すぎる訳

つまり、新卒の就活や転職活動においても「どの会社に入るか」という“就社”ではなく、「誰と一緒に、どんな仕事を通して、どんな役に立つのか」といった、より具体的な観点を重視する人が増えているのだ。そのため、こうした志向からすれば、職種や上司・同僚は仕事選びの大事な基準なのにもかかわらず、自由に選べないことが「ガチャ」のように感じられるのだろう。

企業の人事側の採用や配属の考えも変わってきている。筆者が転職エージェントとのマッチング支援サービス「みんなのエージェント」を運営する中では、この1年でこうしたテーマのご相談もとくに増えた。

企業もこのような変化に何の対応もしていないわけではない。例えば、総合職採用を撤廃もしくは並行するような形で、職種別の新卒採用を行っているケースがある。

IT系では、プログラミングなど高度な専門スキルをすでに保有している学生を対象に、職種を確約し即戦力として新卒採用を実施している企業もある。公開事例で言えば、KDDIは2020年度新卒採用から、従来の採用に加えて「WILLコース」という採用枠をスタート。こちらの採用コースでは初期配属領域を確約しているそうだ。

希望どおりの勤務地で働けるケースも

職種と同じく働く個人にとって重要な要素である「勤務地」の希望を確実にかなえる手段として、地域限定社員という雇用制度をつくっている企業も多い。また、NTTがリモートワークの活用を前提に転勤・単身赴任を廃止していく方針を打ち出し話題になったように、「勤務地ガチャ」のリスクを下げる動きも増えつつある。また、住友生命保険では、今年4月新卒入社予定の約60人から、最初の数年間は本人が希望した地域の拠点に配属する方針を発表している。

しかし、そうした動きはまだまだ少数派。では、「ガチャ」に外れた人はどうするのか。その環境に黙って耐えたり創意工夫をしたりする人も多くいるだろう。

ただ、「ガチャ」と同様にゲーム的な表現をするならば、「リセット」つまりやり直しをする人も増えている。より端的に言えば、今の環境には早めに見切りをつけ、自分の希望に合った職場を探し直すのだ。本当に個人の力ではどうしようもないほどの環境では、その決断もやむをえない。しかし、あまりにも安易な離職が増えるのは、個人・企業ともにリスクではないだろうか。

このように、「配属ガチャ」や「上司ガチャ」はキャリアの安易なリセットを引き起こしかねない、現代社会ならではの問題だとも捉えることができるだろう。しかし、この問題の根底に流れるものは、むしろ昔から変わっていない。「ガチャ」と表現されるのは、配属先が決まるまで仕事内容や一緒に働く人の情報がわからないから。つまり、「企業と個人の間で情報の非対称性が生じていること」が原因でもある。

個人からしてみれば、まるで商品の中身を見ずにパッケージだけで購入をしなければならない状態。ふたを開けてみたら予想と違ったというミスマッチも、雇用市場ではたびたび起こっている。大手企業であるほど、採用に関わる社員と実際の部署で直属の先輩や上司になる社員は異なる場合も多く、「入社前に会った人、聞いていた話と違う」というギャップが生じることも、当たりはずれのあるガチャのように感じられるのだろう。

相互に情報開示しあう必要がある

そのため、本質的な問題解決のためには、これまで以上に採用する側・される側が相互に情報開示しあうことが欠かせない。

また、若手個人としても「ガチャ」の結果に振り回されている状態は、会社から与えられた機会に左右されているだけで、キャリアには受け身的だと言える。「会社が自分に合った仕事をさせてくれない」「上司や同僚のせいでいい仕事ができない」と他責している側面が多少なりともあるからだ。与えられた機会が外れだったとリセットを繰り返しては、キャリアアップは徐々に難しくなってしまう。