コロナ禍の中、全国に張り巡らされたPTA組織のほころびが広がっている。休止しても困らない活動があるためだ。本当はボランティアのはずなのに、義務のように感じて仕方なく引き受けることも多いPTAの仕事。地域単位で設けられている「上部団体」と呼ばれる組織への加盟はその象徴との見方も広がっている。
神戸市中央区の小学校8校は、9月25日に開かれた同区小学校PTA連合会の総会で、上部団体の神戸市PTA協議会(三浦国英会長)から退会することを、賛成多数で決めた。
同区連合会を動かしたのは、コロナ禍で身動きがとりづらい現場を無視するかのように市協議会が進めた活動だった。
神戸市立小学校のPTAは、4月12日に役員会や理事会などの活動を休止した。2月に全国一斉休校、4月7日には緊急事態宣言が出て、外出もままならなかったためだ。ところが、市協議会は緊急事態宣言が続いていた5月7日、各校のPTA役員名簿の提出を求めてきた。
保護者は学校に行くことさえ遠慮していたタイミングだ。役員決めどころではなかった。そんな事情を無視するかのように、市協議会は同月18日、書面による持ち回り審議で役員会を開くと通知してきた。2019年度会計報告や2020年度予算案などについて、10日以内にインターネットサイトから回答するよう求めたのだ。
市協議会は、同市立の幼稚園、小中高校と、特別支援学校の5校園ごとのPTA連合会を束ねる。理事は各連合会から出すが、その「理事名簿案」で保護者側の理事は、連合会長以外はほぼ空欄。協議会理事は個別校園、区連の総会、市連の総会を経て決まる。コロナ禍で、各校園の保護者がPTA活動どころではないことを象徴していた。これについて、市協議会は「9月に開催予定の理事会に向けた資料を役員に確認してもらう必要があったが、コロナで集まることができなかったため、書面審査を依頼した」と説明した。
さらに関係者が驚いたのは、同日、体に触れずに測る電子体温計を、約4500万円を投じて買い、5校園のすべての約4500クラスに配るという案に書面での同意を求めてきたことだった。提案したのは「神戸市PTA安全教育振興会」というPTA活動中の事故などを補償する制度の運営組織だが、これは同協議会の会員のための制度で、会長を兼務する三浦氏の名前で提案された。
この資金は、安全教育振興会が補償などで使った余りの資金を積み立てた「災害準備積立金」の約7000万円から出すという。提案には「『各クラスに非接触赤外線電子体温計』を配布できないかと考えています。ただ現状欠品していますので品物が届き次第の配布になります」と書かれているが、具体的な商品名やどういう性能や形のものを買うかも書かれていない。支出についても「約1万円×約4500クラス=約4500万円」と示すだけで、「賛成する」か「賛成しない」かに丸をつけて10日以内に回答するよう求めた。
多額の支出に対する情報量の少なさに反発した関係者は多かったという。同制度は協議会に加入するPTAの9万世帯余りに1世帯当たり年100円の「負担金」を求めて運営されてきた。
2019年度は900万円余りを集めたが、スポーツ大会での骨折や肉離れなどで支払われた見舞金は25件の計約81万円。多額の補償に備える団体傷害保険などの保険料が約299万円だった。人件費などの「総務管理費」で約164万円を使ったほか、「協力金」などの名目の「活動費」で約96万円を支出した。このような支出の結果、年間約200万円が余るが、こうした余剰金が積もり積もって7000万円ほどになったというわけだ。