日テレ同時配信開始で聞こえる電波返上の足音

テレビ離れ対策に同時配信は有効か

こうして日本のテレビ局が、日本語と無料の壁に守られていると思い込みノロノロしていた間に、視聴者であるユーザーはテレビ局を見限ってしまいつつある。以下のグラフはNHK放送文化研究所が5年ごとに調査しているテレビの行為者率の1995年から2015年までの経年変化だ。

行為者率とは1日に15分以上テレビを見た人の割合になる。これを見るとテレビがどんどん見られなくなっているのがわかるが、男性は2010年から2015年にかけて減少幅は大きく拡大し、テレビ離れが加速している。

とくにZ世代と言われる幼いときからネット環境の中で育った世代のテレビ離れは顕著だ。2015年これほどまで落ち込んだものが5年が経った2020年、どのようになっているか。今年の調査結果が気になるところだ。

こういったテレビ離れした人たちに番組を見てもらうためには、その人たちが見ている場所、つまりインターネットに番組を出していくしかない。日本テレビだけでなく全局が全番組を同時配信、さらに見逃し配信をすれば時代遅れだったテレビは一気に復活すると私は考えている。ところが、それがなかなか難しい。最大の障害は権利処理の問題だ。

番組を配信するには放送とは別にすべての権利者から許諾を得なければならず、二重の権利処理が必要でコストと労力がかかる。番組配信はまだビジネスとして未成熟であり、多くの番組の権利処理が必要な同時配信はテレビ局の負担が大きい。

解決策は同時配信を放送とみなすことだ。これについては、政府も動き出した。内閣府の規制改革推進会議が7月2日に出した答申では同時配信について、『著作権法上、放送と同等に扱われるべきであり、ふたかぶせの問題を解決するにはこの制度改正が必須である』としている。

「ふたかぶせ」とは、同時配信の番組の中で権利の許諾が取れない部分は視聴できないように「ふた」をかぶせてしまうことをいう。「ふたかぶせ」によってニュースや情報番組では許諾の取れないスポーツ映像が視聴できなかったり、NHKの同時配信では当初『ブラタモリ』は番組自体が視聴できなかったり、TBSの見逃し視聴では大人気の『半沢直樹』がダイジェストしか視聴できなかったりする。この問題を解決するには、著作権法の改正が不可欠なのだ。

同時配信と見逃し配信はセットで有効

またこの答申が画期的なのは、『放送番組のインターネット同時配信には、類似のサービスとして、いわゆる追っかけ再生や一定期間の見逃し配信も含むべき』と明記されていることだ。

実は同時配信だけではそれほど需要がないことは実証されている。NHKでは2016年11~12月の3週間、4999人を対象に同時配信と見逃し配信の実験をしたところ、期間中に一度でも同時配信を利用した人は6%、見逃し配信を利用したのは8.5%という結果だった。

利用者が少なすぎるように見えるが、視聴習慣はそう簡単には変わらない。利用者の絶対数ではなくむしろこの実験では、同時配信より見逃し配信の方が多く利用されたことに注目したい。

SNSではテレビ番組がよく話題になるが、見逃し配信でなければ話題の番組を見ることはできない。民放公式の見逃しサービスTVerは、今年3月時点で累計ダウンロード数は2500万を突破しMAU(マンスリーアクティブユーザー)も1000万を超えている。

このTVerという共通プラットフォームで日本テレビだけでなくほかの局の同時配信と見逃し配信が視聴できれば、ユーザー数は急増しテレビ番組の面白さに気付いた若年層のテレビ回帰につながるとみている。

同時配信については、NHKが一足先に今年4月から開始した。6時から24時までの、東京エリアで放送する番組を全国に同時配信し、追っかけ再生や放送後7日間は見逃し配信も見られるなどNHKの力の入れ方がわかる。