数学が苦手な人は社会の仕組みがわかってない

反対に「ブループラネット」のスコアは低くなる。これは、「ブループラネット」と「アイアンマン」の両方を見た人がずっと少ないためだ。「アイアンマン2」と「ブループラネット」」の両方を見た人はさらに少ない。この結果、「ブループラネット」のマッチ度は低くなる。こうして「こちらもオススメ」には「アイアンマン2」が表示される。コンピューターはさらに、この計算結果(例えば、あるユーザーが「アイアンマン2」をどのくらい気に入るか)を別の作品に関するマッチ度の正確性を高めるために活用する。

Netflixやグーグルで活用されているグラフ理論は、数学の1分野だ。生活に関わる数学のなかで重要なのはこれだけではない。例えば、具体的な数値をふくんだニュース記事には統計が使われていることが多い。

選挙前の世論調査を伝える記事はよくあるが、得られた数値から国全体の政治傾向がわかったと言われても、それをどう解釈するか。この手の調査はまずあてにならない。最たる例は2016年のアメリカ大統領選挙だ。世論調査によればヒラリー・クリントンが圧勝すると言われていたが、そうはならなかった。つまり、数値からは誤解が生まれやすいのだ。

結果的に嘘になってしまうことも

事実を曲げる意図はなかったとしても、結果的にうそになってしまうこともある。この種の統計にはさまざまな事実が隠れているので、数値を扱うときにどんな間違いが起こりうるかをわかっていないと、さも大ごとのように伝えられる記事の内容を鵜呑みにしてしまう恐れがある。世論調査を読みとくのはいいが、その解釈がまったく見当ちがいかもしれないとしたら、そんな記事はどこまで信頼できるものだろうか。

あるいは、政府がある制度に関する方針を変更したというニュースを目にしたとする。改編は賢明な判断だろうか。ここで客観性を第一に考えるなら、新制度の影響試算に目を通すべきだろう。

どの国にも、経済政策や財政状況を調査・分析する機関があるはずだ。ある政策の影響を判断するといっても、考慮すべき点はいくつもあり、その全部を見通すことは不可能に近い。例えばある試算で「長期的に可処分所得は増加傾向」と示されたとき、それはあらゆる要素をわかりやすい一点に集約して表現しているにすぎない。そこにいたるまでにはたくさんの数学が使われている。

もう少し身近な話をすれば、エスプレッソをいれるときにも数学は使われている。高機能なエスプレッソマシンなら、お湯を沸かしてコーヒーを抽出するだけでも相当の手間がかかる。まず確認されるのは水が温まる速さ。そしてこれをもとに、加熱を続けるか、少し冷めるのを待つかを判断する。理想の温度になるまではこの繰り返しだ。考えてみたことすらないかもしれないが、エスプレッソ1杯にも、高校時代に習った数学の公式が使われているのだ。

数学が生活に及ぼす影響はかなり大きい

こう見てくると、数学が生活に及ぼす影響はかなり大きい。自分で計算することはないにしろ、毎日さまざまな計算の世話になっている。判断の際に参照する情報も、なんらかの数学的な処理の結果だと言ってかまわないだろう。グーグルやフェイスブックなど、情報をフィルタリングして表示するウェブサイトでは、コンピューターによる計算に基づいて検索結果を表示しているからだ。

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身のまわりにあるテクノロジーにも、数学を利用したものが増えてきた。全自動のエスプレッソマシン、飛行機の自動操縦、仕事に欠かせないパソコン。これらはすべて数学がベースになっている。さまざまなところで数学が使われるようになるなかで、数学とその影響をある程度理解しておくことがますます大切になっているのだ。

だからといって、ニュースに出てきた数値を詳細に確認し、AIの最新動向をすべて把握する必要はない。基本的な仕組みを理解するだけでも、世界の見え方はかなり変わるだろう。研究やアンケートの結果に引っかかるところがあれば、もととなる数値を批判的に見直してみるとよい。あるいは、当局や企業としてどこまで個人にかかわるデータを収集すべきか、意見交換をしてみてはどうだろう。数学を身につければ、集められたデータで何が行われているか、より正確にイメージできるはずだ。