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スキマ時間を利用して働く「スポットワーク(スキマバイト)」が活況を呈している。飲食店やスーパー、ホテル、物流などの事業者が「人手が足りない時だけ」人を募集し、労働(求職)者は「働きたい時だけ」働く形態だ。
これを可能にしたのが、仕事と求職者をマッチングするスマホアプリの出現である。2018年からサービスを開始したタイミーに続き、パーソルやLINEヤフー、リクルートなども次々と参入している。最大手のタイミーは24年7月に、東京証券取引所のグロース市場への新規上場を果たした。
スポットワークアプリのユーザーは、アプリ上に掲載された求人の中から条件に合った仕事に応募して事業者とマッチングすると、最短1時間から働くことができる。長期雇用のアルバイトのように事前の面接や履歴書の提出は不要だ。勤務後はユーザーが事業者に対してアプリ上で「Good」か「Bad」で評価し、それが完了すると報酬が即日入金される。また、事業者側も任意でユーザーを評価できる。多少の仕様の違いはあるが、タイミー以外のアプリも基本的に仕組みは同じだ。
新しい働き方ともいえるスポットワークの広がりは、労働者にとって歓迎すべきことなのだろうか。労働経済学を専門とする日本大学教授の安藤至大(むねとも)氏はこう語る。
「ユーザー(=労働者)と事業者がアプリ上で相互評価し、実績を可視化させたことは大きな意味を持つ。現場の働きやすさなどの事業者の情報や、ユーザーの働きぶりが評価によって第三者にも見えるようになった。長期雇用のアルバイトでは高齢者は採用されにくいのが実情だが、アプリ上で『Good率』が高ければ事業者は安心して採用できる。生活費の足しのために働く高齢者もいるが、働くことで世間とつながりを持ちたいと望む方も増えている」
タイミーの調査によると、55歳以上でタイミーに登録しているユーザーは、23年3月時点で約18万人だったのが24年3月には約38万人に上り、1年で約2.1倍となった。体調に合わせて働くことができるのも、高齢者にとっては好都合な仕組みなのだ。
「これまで精力的に働くか、働かないかの二択しかなかったところに、マイルドに働きたい人のニーズもかなえられるようになった」(同)こともユーザーにとってメリットは大きい。
スポットワークは、日中に短時間だけ働きたいという主婦との親和性も高い。人手不足解消が求められる昨今、?埋もれた?労働力の掘り起こしに寄与しているともいえる。
一方、スポットワークを巡るトラブルが散見されていることも見逃せない。クラウドサービスを開発・運営するKiteRa社(東京都港区)の24年4月調査では、スポットワーク経験のある20代以上の男女348人のうち、51.4%が勤務先で何かしらのトラブルに遭遇したと回答した。「仕事内容が事前に聞いていた内容と異なる」「労働条件(労働時間や給与など)が異なる」の2つは多く上がったトラブル事例だ。
24年11月には、タイミー上に不適切な疑いのある求人が募集される事案が発生し、SNS上で「闇バイトでは?」と安全性に対して問題視する声が上がった。これに対して24年12月にタイミーは、24時間365日、求人原稿を掲載前に目視と機械的な仕組みを組み合わせて全件チェックする体制を構築するなど、不正利用防止のための対策を発表した。
対策に効果はあるのか。同社社長室の渡辺尚人氏は「11月末から新たな体制での取り組みを始め、1月6日時点で不適切な疑いのある求人の掲載は見られない。引き続き、安全対策を強化し、悪用されない徹底した仕組みをつくっていく」と話す。