AI技術のレベルに差が生じれば軍事バランスにも大きな影響が出ることになるので、すべての国家にとって防衛力強化のための課題となっている。
ナイは、AI軍事利用の問題点として人間の意思決定を経ることなく発動される自律型致死兵器が武力紛争下での文民の保護に悪影響を与えることやAI技術が生物兵器の開発やテロリズムに活用される危険から、国際的な歯止めの必要性を指摘している。
現代の戦争では意思決定の迅速性が勝敗の鍵ともなる。AIはこの面で重要な役割を果たすが、飛来するミサイルへの対応など意思決定の時間が極めて短い場合、機械に判断を任せることにもなりかねない。
AIの軍事利用の規制には、核不拡散体制のようなグローバルな規制と地雷や特定通常兵器使用制限禁止条約のような人道的観点からのアプローチがあろう。前者については、AI技術の汎用性が高く、そもそも各国内での規制や管理も不充分で、また、実効性を担保する査察制度も困難と思われ、核不拡散体制を参考とするとのナイの示唆は現実性が乏しいように思う。
他方、人道面のアプローチでは、AIを用いる軍事行動の最終判断に人間の意思を介在させる義務や文民の保護に十分な配慮ができない自律的致死兵器の使用態様の禁止を定める条約等が考えられる。しかし、ロシアや中国はそのような条約には反対とのことでもあり、また、地雷禁止条約の様に条約ができても参加しないであろうから実現可能性は低い。ただ、例えば、核兵器の使用の判断についてはAIに委ねてはならないといった規範は意味があり実現可能性もあるのではないか。
留意すべきは、情報収集・処理能力、体制構築、兵器の選択、作戦能力、後方支援体制の強化や効率化など、あらゆる面でAIの活用の余地があるが、同盟国間では、この面での協力関係の強化と、同時に汎用性あるAI技術の非友好国への流出防止などが課題となってくるのではないか。
さらに、防衛省が「認知領域」と呼ぶ平時の情報戦におけるAIの活用も重要で、日本周辺には、情報操作に熱心な国もあり、SNSその他の手段を用いた偽情報や気付かぬうちに世論操作が行われる可能性もあり、そのような手法はAI技術を利用することによりさらに巧妙になるであろう。これら情報戦に対抗し情報操作を暴き是正するためにもAI技術の活用は有効と思われる。