米民主党は、米国の二大政党のうち左派の政党だが、まとまりが少なく混乱した政党だというイメージを持っている人も多いのではないだろうか。
2016年の大統領選挙では、民主党候補となったヒラリー・クリントンと民主社会主義者を自称するバーニー・サンダースが争い、サンダース支持者の一部がヒラリーに投票せず、共和党のドナルド・トランプに勝利をもたらした。また、20年の大統領選挙では民主党支持者が打倒トランプの下に結集してジョー・バイデンが民主党候補となったが、サンダース派がバイデンにさまざまな要求をつきつけ、もともと穏健派とされたバイデンが左派寄りの政策を実施するようになった。その結果、まずはそれに不満を抱く上院議員のキルステン・シネマが民主党から離れた。
そして24年の大統領選挙では、民主党はバイデン大統領、カマラ・ハリス副大統領のチケットで大統領選挙に臨む事が確実視されているが、ノー・ラベルズと呼ばれる第三の候補者擁立の動きが起こり、民主党上院議員で穏健派のジョー・マンチンの擁立が噂されている。
米国の民主党が団結力に欠けているというイメージは、少なからず当たっている。民主党がこのような状況になった理由を解明するために、まずは歴史的な背景を検討する必要がある。その上で今日の民主党を取り巻く状況を解説することにしたい。
米国の民主党はリベラルな政党だと指摘されるが、米国におけるリベラルという言葉の意味はヨーロッパのそれとは異なっている。ヨーロッパでは小さな政府の立場を提唱する立場がリベラルと呼ばれ、福祉の拡充を目指す立場は社会民主主義と呼ばれる。米国におけるリベラルは、ヨーロッパにおける社会民主主義の意味に近い。
そのようなリベラルの意味が確立したのは、フランクリン・ローズヴェルト政権期である。米国では歴史的に連邦政府の権限拡大を忌避する観点から、19世紀に至るまで連邦政府が積極的な役割を果たすことはなかった。
だが、大恐慌に際し、ローズヴェルト大統領がさまざまな社会立法を実施するようになった。ニューディール派が自らのことをリベラルと称するようになったことが、米国的な意味でのリベラルの語源である。
ただし米国の政党はイデオロギー的な意味で一貫しているわけではないため、民主党の政治家も支持者もこぞって進歩的な政策を追求しているわけではない。そもそも、ニューディール政策も一般的にイメージされているほど進歩的な性格を持っていたわけではない。大恐慌中で非常に強い支持を集めたローズヴェルト大統領であっても、思い通りの政策を全て実施することができたわけではなかった。
例えば、それまでさまざまな州で実施されていたような公共事業を実施したり、複数の州で導入されていた社会保障(年金)を公的に制度化したりすることには成功した。だが、どの州でも実現されていなかった皆医療保険政策を実現することはできなかった。そして、ローズヴェルトの後任であるハリー・トルーマン大統領も国民皆医療保険制度の実現を目指したが、挫折した。