<ハマス最高指導者ハニヤ暗殺>見せつけた情報機関モサドの実力、ネタニヤフの思惑とは?

2024.08.03 Wedge ONLINE

 2回目は24年4月、シリア・ダマスカスにあるイラン大使館がイスラエルの空爆を受けた事件。イランは同13日に350発に上る弾道ミサイルやドローンをイスラエル本土に発射した。

 今回は殺害されたのがイラン人ではなく、支援する組織の人間だったことから、ヒズボラやフーシ派、イラクの民兵などがイランの代理でイスラエルを攻撃する可能性もある。

真の狙いは「停戦協議つぶし」

 イスラエルの狙いは何だったのか。ネタニヤフ首相はガザ戦争終結の条件として、ハマスの壊滅を挙げており、ハニヤ暗殺はその目的に合致している。

 ハニヤ氏はかつてガザの指導者だったが、19年にカタールに亡命し、そこから指揮を執ってきた。今回のガザ戦争では、子どもと孫をそれぞれ3人ずつイスラエル軍に殺され、姉も犠牲になった。

 イスラエルは暗殺について「戦略的な沈黙」を貫いているが、国内治安機関シャバクの長官はガザ戦争ぼっ発後、ハニヤ氏を暗殺すると語っていた。無論、ハマスに打撃を与えることは暗殺の目的の一つだが、「ネタニヤフの真の狙いは2つ。イランと米国にメッセージを発することだ」(ベイルート筋)。

 イランに対しては、イスラエルに手を出したり、核開発をこれ以上進めたりすれば、いつでも攻撃できることを警告するため。米国に対しては、ハマスの壊滅なしにはガザ戦争の停戦協議に応じられないことをあらためて突き付けるためだろう。

 暗殺でバイデン大統領の停戦提案が実現するのは当面困難になったとみられているが、バイデン氏や民主党の次期大統領候補ハリス副大統領はこのほど訪米したネタニヤフ氏に早期停戦を強く要求していた。たが、ネタニヤフ氏が暗殺を通して回答したのは「停戦協議つぶし」ということだ。

退路を断ったバイデンはどう動くか

 ネタニヤフ氏には3つ目の狙いもあるのではないか。それはイランを巻き込んだ戦争に拡大し、そこに米国を引きずり込むことだろう。

 米国をイスラエルの軍事行動にがんじがらめにして支援させることだ。ネタニヤフ氏が米議会演説で米国との連帯、一体化を強調した真意がここにある。

 暗殺の直前、イスラエル軍はレバノンの首都ベイルートを空爆し、ヒズボラの最高幹部シュクル司令官を殺害した。バイデン政権が中東の緊張を緩和させようと尽力すればするほど、ネタニヤフ政権がぶち壊しにかかる構図だ。

 イランが報復行動に出た時、再選のくびきから脱したバイデン氏がどう腹をくくるのか、中東は重大な岐路に立たされている。