【インドの銀行に死蔵?】ロシアが石油を輸出しても収入は懐に入らず、戦費調達へなされたスキーム

2024.07.28 Wedge ONLINE

 インドのモディ首相が7月8日から9日にかけてロシアを訪問し、9日にはプーチン大統領との首脳会談が開催された。モディ首相による訪露は、約5年振りとなる。中国一極依存が指摘されるプーチン政権にとり、インドというもう一つの戦略的パートナーの存在は死活的に重要であり、しかもモディ首相の側が訪露してくれたことは、この上なくありがたかったことであろう。

ロシアの石油タンカー。欧米各国から制裁を受けている石油はどこへ行っているのか(Alexey Bakharev/gettyimages)

 首脳会談の中でモディ首相は、「戦場では解決策を見付けられない」と訴え、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化に懸念を示す場面があった。ただ、モディ首相としても、プーチン大統領にそのように迫っても、聞き届けられる可能性はないことは、ある程度承知の上だったのではないか。ましてや、モディ政権が、ウクライナでの和平を実現するために、インド自身の国益を犠牲にすることはまずなかろう。

ロシアの戦費を実質的に支えるインド

 ロシア・インド首脳会談を総括する共同声明には、両国が2030年までに往復1000億ドルの貿易額を達成するという目標が示された。そこで、図1に過去10年間の両国間の輸出入額をまとめてみた。

 ウクライナ侵攻開始後、ロシアは詳しい貿易統計を発表しなくなってしまったので、これはインド側から見た輸出入額である。確かに、23年の時点で往復657億ドルなので、30年に1000億ドル達成というのは、丁度良い目標にも思える。

 ただ、図1に見るロシアとインドの二国間貿易は、ずいぶんといびつな姿になっている。21年までは平凡に推移していた貿易額が、22年になって急増し、しかもインド側の輸入だけが突出して伸びている。

 その原因は、ロシアが22年2月にウクライナへの全面軍事侵攻を開始して以降、先進国がロシア産石油を買わなくなり、割安になったその石油をインドが爆買いし始めたことに尽きる。ちなみに、23年には、インドの対露輸入の81%が原油・石油製品によって占められた。

 石油輸出の急増の結果、23年の時点でインドにとりロシアが第2位の輸入相手国に躍り出た。だが、インドの輸出相手国としてロシアは取るに足らない存在であり、23年の時点でシェア0.9%、順位30位にすぎない。

 石油相場が高騰でもすれば、30年とは言わず、来年にでも1000億ドル突破は可能かもしれない。ただ、それが両国によるバランスのとれた経済関係の発展を意味するかと言えば、答えは否であろう。

買い叩くインドへロシアの対策

 ロシアの側から見ると、先進諸国が軒並みロシアからの石油輸入を手控える中で、インドが購入に名乗りを上げてくれたからこそ、石油輸出量を維持することができた。図2から、確かに中国やトルコの輸入拡大も大きいものの、従来ロシア原油の目立った購入実績のなかったインドが大量輸入を始めたことこそ、輸出量維持の鍵だったことが見て取れる。これがなければ、ロシアの戦費調達をめぐる状況も、まったく違っていたはずだ。

 インドがロシアの石油を旺盛に輸入するようになったのは、ロシアのウラル原油が、国際価格に比べてかなり割安になったからである。図3に見るとおり、もともとウラル原油は、欧州の原油価格指標であるブレントとほぼ同水準で推移していたが、22年2月のウクライナ侵攻開始後しばらくは、ウラルがブレントよりも1バレル当たり20~30ドルも安い状態が続いた。22年12月5日に主要7カ国(G7)が1バレル60ドルの価格上限制を導入したことが決定打になり、ウラル原油のバーゲン状態が定着するかと思われた。