「15歳にも分かるようにしてほしい」編集者から突き返された原稿案、『15歳からの社会保障』の著者インタビュー、これだけは絶対に伝えたかったこと

2024.04.12 Wedge ONLINE

 「『15歳からの社会保障』は、知る機会を提供することに全フリした本です」

 横山さんが心がけたのは、社会保障制度に対する「スティグマ」を減らすこと。スティグマとは、利用者への差別や偏見、サービスを使うことを恥ずかしいと思う意識などを総称する言葉である。最もそれが強く出るのは生活保護制度だろうが、失業保険や社会福祉サービスなどの他の社会保障制度でも、ネガティブイメージは常につきまとう。

 ゲラをみせて知り合いの専門職に意見を求めたさいに、「模範的な相談者だね」とコメントされたという。現実の相談者は、本書に登場する主人公たちのように物分かりがよい訳でもなく、関係者が「いい人」ばかりでもない。ハッピーエンドに落ち着く事例はむしろ少数かもしれない。

 筆者自身も自戒を込めて言うのだが、リアルな現場や登場人物を忠実に再現すると、どうしても「社会の標準」からは外れた人物像となってしまう。世にあふれる貧困者のドキュメンタリーの登場人物は、一般的な社会規範からみれば驚くような価値観や文化のなかで生活している。

 「高校を中退して児童養護施設を退所したあと、10代で妊娠。相手男性は覚せい剤中毒でDVあり。勤務先の寮を追い出されて、車で路上生活をしているときに支援者につながった」

 こうした読者が喜ぶ刺激的なエピソードを見つけるのは、支援の現場ではそう難しいことではない。ただ、そうした物語のみを強調することで、より困難な人が利用するものであるといったような、社会保障制度に対するネガティブイメージは強化され、読者から遠く離れたものとなってしまう。それが権利であるにも関わらず。

「貧しすぎる社会保障教育」をどう変えるか

 大人が伝えたいことを伝える「貧しすぎる社会保障教育」とは対極に位置する。リアルな空気を大事にするドキュメンタリーとも異なる。社会保障教育に一石を投じたいとの横山さんの願いは、少しずつ社会を変えている。

 『15歳からの社会保障』は、現在、5刷1万5000万部。出版不況が叫ばれる昨今、社会保障という固いテーマを扱った本としては異例のヒットとなっている。出版をきっかけに学校現場から声がかかり、中高生の授業で社会保障教育を担当する機会も増えた。

 現在、厚労省では社会保障教育について、新たな教材づくりに着手している。横山さんも、検討会のメンバーの一人として参加している(社会保障教育の推進に関する検討会)。

 今までは、研究者や高等学校の教員を中心に進められてきた社会保障教育に、横山さんのような社会福祉分野の専門家が参画する意義は大きい。検討会では「ストーリー教材(案)」として、制度ではなく、人物を中心に置いた教材が検討されている。そう遠くない未来、新しい社会保障教育の形が示されるかもしれない。

 横山さんのメッセージはシンプルである。

 「あなたを大切に思いサポートしてくれる人や仕組みが社会にはある。人生の早いタイミングでそのことを知ってほしい」