健康寿命を延ばす「無理しない思考法」

老眼の始まりは30代!?――ホントは怖い「目のかすみ」との向き合い方

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老化による目のかすみをどうするか

目のかすみや見えにくさの原因は上に挙げたものが主なものですが、とりわけ老眼と白内障が多いようです。

とくに老眼は、ある年齢になれば、だれでも必ず起きてくる症状です。眼鏡で補正できますが、しかし老眼鏡をかけることが年を取ってきたことを認めることになるためか、老眼鏡をいやがる人も多いものです。
その気持ちもわからなくもないですが、老眼を受け入れていくことは自分の老化を認めることになり、さらに高齢になったときどう過ごしていくかの練習になります。

白内障の多くの患者さんは、手術でほとんどよくなっています。問題は、いつ手術をするかの踏ん切りがつかないことです。多くの人は眼科医の勧めによって手術をします。ですが、手術をしてしまえば日常生活にはそれほど問題なく過ごせます。

五感は、年齢ともに機能が低下していきます。耳の聞こえも悪くなります。聴覚の低下は補聴器でなかなかうまく補えないことが多く、家族との会話もスムーズにできなくなって、なかなか乗り越えられません。
その点、目のトラブルの多くは、手術や眼鏡によって改善できます。視力は五感の中で、唯一リカバリーできる能力と言えるかもしれません。
むろん、すべての目のトラブルに対処できるわけではありませんが、そうできる可能性が高いのが目なのです。だから、目の衰えを感じた際に否定的に捉えるのではなく、積極的に老いや不調に向き合い、治療をしていったほうが悩む時間が少なくて済みます。

普段私たちは、臓器の存在を意識しないものです。お腹が痛くなって、初めて胃や腸の存在に気がつきます。見えて当たり前の状態だったときは意識しなかったが、次第に見にくくなってくれば、やはり目の存在に気がつきます。
当たり前のようなことですが、それくらい健康であるときは、からだの臓器や感覚器を意識しないものです。
老化が始まる時期というのは、そういった自分のからだの臓器、感覚器の存在を知る時期ともいえます。人は病気になるまで、健康あることになかなか感謝はしません。当たり前の状況は、じつは非常に幸運な時期だったと、病気になって気がつくのです。

比較的若い時期から衰えを自覚させられる目は、加齢による衰えと医学の進歩を感じられるきっかけになるとも言えます。目の衰えを肯定的に捉えることができると、そのあとに起きてくる様々な老化現象にも否定的にならずに、楽観的に受け入れて過ごせるようになります。
不調を抱える患者さんの多くは、医者に「これは治りますよ」とはっきり言ってもらいたいのですが、なかなか医者ははっきり「治る」とは言いません。しかし、目のかすみは「それは治りますよ」と言い切れる数少ない症状です。老いを自覚する入門には、ちょうどいいのです。

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プロフィール

米山公啓
米山公啓

1952年、山梨県生まれ。聖マリアンナ大学医学部卒業、医学博士。専門は脳神経内科。超音波を使った脳血流量の測定や、血圧変動からみた自律神経機能の評価などを研究。老人医療・認知症問題にも取り組む。聖マリアンナ医科大学第2内科助教授を1998年2月に退職後、執筆開始。現在も週に4日、東京都あきる野市にある米山医院で診療を続けているものの、年間10冊以上のペースで医療エッセイ、医学ミステリー、医学実用書、時代小説などを書き続け、現在までに300冊以上を上梓している。最新刊は『脳が老化した人に見えている世界』(アスコム)。
主なテレビ出演は「クローズアップ現代」「世界で一番受けたい授業」など。
世界中の大型客船に乗って、クルーズの取材を20年以上続けている。
NPO日本サプリメント評議会代表理事。推理作家協会会員。

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