健康寿命を延ばす「無理しない思考法」

最近、耳が聞こえづらいかも――医師が勧める「聞こえ」のトラブルの対処法

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加齢性難聴が大きな問題

40歳代から聴覚の衰えが始まります。75歳以上になってくると約半数が難聴に悩んでいます。

加齢による聴力の低下は一般的に高音域から始まります。だから40歳代のうちはあまり自覚することはありません。筋力の低下もそうですが、聴力を普段限界まで使うということはないでしょうから、なかなか自覚はできません。しかし、年齢とともに、確実に高音域の聴力レベルは下がってきます。

60歳代になると、軽度難聴レベルまで聴力が低下して、聞こえが悪くなったことを自覚し始めます。さらに70歳をこえると、ほとんどの音域の聴力が低下してきます。

加齢によって聞こえが悪くなるのは、音を感知する細胞の数が減るためです。からだの衰えは結局、様々なところの細胞が減っていくことが原因です。加齢性難聴もそのひとつなのです。
なお、加齢性難聴というのは、音を感知する細胞の減る原因が見つからないものを言います。高齢になってくれば、内耳から脳へ音を伝える神経経路にも障害が起きてきます。

また、難聴によって認知機能を悪化させることが様々な研究でわかっています。認知症を悪化させないためにも、補聴器の使用を勧める意見もあります。

加齢性難聴の予防

耳からの音の情報が入ってこない、つまり人の会話が聞きにくくなって、曖昧な返事をしてしまうということが起こってきます。
人とのコミュニケーションの低下は、脳の衰えを進めてしまう危険があります。歳のせいと諦めずに、できるだけ早期から補聴器などを使って会話の理解力を保っていくことが重要になります。

難聴も耳鳴りもやっかいな症状です。医学の教科書的には、いろいろな原因が記載されています。前に述べたように、もちろんその中には治せる病気もあります。しかし、高齢になると、原因がはっきりしない場合が多く、耳鳴りや難聴に悩むことになります。

以前、私は踏み切りの遮断機から出る警報音が聞こえるところに住んでいました。初めはその音がすごく気になって、ここには住めないと思っていました。しかし、2ヶ月も経ったころには、その音が聞こえなくなったのです。決して遮断機から音がしなくなったということではなく、鳴っていても、それをうるさいとは感じなくなったのです。

人間の脳には同じような刺激に対して慣れを生じる特性があります。あるいは注意して聞いている音だけを意識できるようにできます。普段の生活でもエアコンの音や外の車の音など、あまり気にならないものです。それは騒音から受けるストレスを回避するための仕組みとも言えます。
耳鳴りは私自身も抱えていますが、やはり慣れてしまい、今は鳴っていても、それを苦痛だとは感じません。

難聴の高齢者を診ていると、慣れが出てきて、家族のうるさい声が聞こえなくていいなどと冗談を言う人もいます。治らない、治せない症状にどう対応していくかが、高齢になったときの生き方でもあるのです。

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プロフィール

米山公啓
米山公啓

1952年、山梨県生まれ。聖マリアンナ医科大学医学部卒業、医学博士。専門は脳神経内科。超音波を使った脳血流量の測定や、血圧変動からみた自律神経機能の評価などを研究。老人医療・認知症問題にも取り組む。聖マリアンナ医科大学第2内科助教授を1998年2月に退職後、執筆開始。現在も週に4日、東京都あきる野市にある米山医院で診療を続けているものの、年間10冊以上のペースで医療エッセイ、医学ミステリー、医学実用書、時代小説などを書き続け、現在までに300冊以上を上梓している。最新刊は『脳が老化した人に見えている世界』(アスコム)。
主なテレビ出演は「クローズアップ現代」「世界一受けたい授業」など。
世界中の大型客船に乗って、クルーズの取材を20年以上続けている。
NPO日本サプリメント評議会代表理事。日本老年医学会特別会員。推理作家協会会員。

著書

80歳でもほどよく幸せな人はこういうふうに考えている

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米山公啓 /
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