成績が振るわない、メンバーが互いに無関心でいっさい協力し合わない、仕事を作業と思っており楽しそうに働いていない、離職者が多く人の入れ替わりが激しい……。これらは日本の多くの職場で見られる光景です。こうした環境に疲弊し、働くことに希望を見出だせない人が増えています。
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部下を育成しようとしたときに、絶対にやるべき3つの教育を理解しましょう。
①手順教育
②基準教育
③なぜの教育
この3つが揃わなければ、育成は恐ろしく非効率になりますから、絶対に理解しておいてください。
部下を育成しようとして、真っ先に浮かぶのはマニュアルではないでしょうか?
大手企業は、詳細なマニュアルを莫大な金額をかけて作っています。
私たちが何気なく使っているマニュアルという言葉。すでに日本語になじんでいる言葉ではあるのですが、無理やり訳そうとすると「手順書」になります。
つまり、仕事の手順を分解して誰でもできるように示したもの、それがマニュアルというわけです。
手順教育とは、マニュアル教育と言って差しつかえありません。
たとえば窓掃除を教えるとします。
「①窓に掃除用洗剤をスプレーして5分置く/②少し濡らした布巾で汚れを拭き取る/③乾いた布巾でから拭きをする/④しっかり乾燥させる」といった手順を教えれば、誰でも同じように掃除ができます。
簡単ですね。これが手順教育です。
マニュアルというと、分厚い説明書をイメージしてしまいますが、あなたがやっている仕事を分解し、順番に並べるだけでいいのです。
次に、基準教育とは、「どの状態に持っていけばゴールなのかを教える教育」のことです。
「この状態がゴールだよ」と、仕事の達成基準を教えてあげます。達成基準なんて聞くと難しそうに感じるかもしれませんが、なんのことはありません。仕事が達成された状態を伝えてあげればいいだけです。
たとえば、先ほどの窓掃除、仕事を達成した状態とは、どんな状態でしょうか。
同じように窓を拭いているようで、何も言わなければ仕上がりは人によって差が出ます。正面から見たらきれいな窓なのに、斜めから見たら拭きムラだらけ。これでは仕事が終わったとは言えませんよね。
どの角度から見てもピカピカな状態に磨き上げるというゴールを示すことで、人による仕上がりの差をなくすことができます。
仕事は、手順を進めるだけでは完成しません。ちゃんと達成基準に向けて完了しなければいけないのです。
ここまでで、手順教育と基準教育の違いは理解できましたか?
わかっている人にとっては当たり前のこの2つの教育、意外と両方できているリーダーは少ないのです。
とくに、手順だけ示して基準を示さない事例は本当に多いです。
「窓はこうやって掃除するんだよ」
「議事録はこうやってとるんだよ」
「資料はこうやって作るんだよ」
そうやって手順を示せば、とりあえず部下は仕事を進めてくれます。
ところが、手順がわかったとしても、どの状態を目指せばいいのか、つまり「仕事のゴール=基準」がわからないので、その仕事がうまくいったのかどうか、部下は自分で判断できません。
したがって、手順どおりにやったとしても、仕事の品質基準が低くなったり、逆に過剰品質になって時間がかかりすぎたりします。
その結果、多くのムダが生まれます。
逆に、基準だけ示して、やり方は任せるという、丸投げに近い教え方。いわゆる「見て盗め」スタイルは、昔の職人さんがまさにこのイメージです。
この育成方法にはメリットはあります。
部下が自分で考えて動くようになったり、手順を自分で設計できる主体性と能力が身についたりするのです。
しかし多くの場合、育成に必要以上の時間がかかります。
なので、基本的には手順と基準は両方教育したほうが育成スピードは早くなります。
では、もっとも重要でありながら、もっとも抜けてしまいがちな3つめの教育を紹介しましょう。