上司1年目は“仕組み”を使え!

「自分で考えて行動する部下」を育てるたった一つのコツ

2022.11.03 公式 上司1年目は“仕組み”を使え! 第37回
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成績が振るわない、メンバーが互いに無関心でいっさい協力し合わない、仕事を作業と思っており楽しそうに働いていない、離職者が多く人の入れ替わりが激しい……。これらは日本の多くの職場で見られる光景です。こうした環境に疲弊し、働くことに希望を見出だせない人が増えています。
この絶望的な状況を変えられる唯一の方法が「チームづくり」です。チームづくりがうまくいけば、すべてが劇的に変わります。部下も会社もあなた自身もラクにする、チームづくりのノウハウを指南します。
この連載をまとめ、大幅に加筆・改稿した、ビジネス書『チームづくりの教科書』(高野俊一)が、アルファポリスより好評発売中です。

理想的なチームも崩壊する

目標を掲げ、関係性をつくることがチームにとって大事であると、この連載で繰り返し言ってきました。しかし、それだけでは強いチームの状態は長く続きません。

私が支援していた、ある飲食店の企業でのことです。
店長のAさんは本当に素晴らしい人で、「地域で一番お客様からありがとうを言われる店になる」と宣言し、スタッフを巻きこみ、業績を伸ばして成果をあげました。スタッフ1人ひとりが「もっとお店を良くしたい」「もっとお客様に喜んでもらいたい」「もっとお店の売上を上げたい」と目標に燃え、サービスレベルや商品のクオリティをどんどん上げていくような理想的なチームをつくりあげたのです。そして、その立役者であるAさんが、晴れて新規出店の店長に抜擢されて異動することになりました。権限移譲も順調に進んで、なんの問題もないようだったのですが……。

その結果、数ヶ月で組織は崩壊しました。離職は増え、仕組みは機能しなくなり、サービスレベルが落ちて業績が下がったのです。新任店長は仕事を抱え、超過酷な長時間労働から抜けだせない状態になってしまいました。なぜこんなことが起きてしまったのでしょうか。

立ちはだかる「受け身の壁」

それは、スタッフの「主体性」を引き出せていなかったからです。

主体性とは、辞書によると、「自分の意思・判断で行動しようとする態度」とあります。Aさんの店舗では、Aさんが店長の頃、スタッフ1人ひとりが目標に燃え、「積極的」には働いていました。しかし、「主体的」だったかというとどうでしょうか。店長が掲げた目標に、共感し、前向きに協力し、喜んで仕事をしていたことは間違いないのですが、その目標を自分の意思で判断して決めていたか……じつはそうではなかったのです。
つまり、主体的に働いていたようで、与えられた目標に共感していただけで、その態度は「受動的」に過ぎなかった。ここに「受け身の壁」があります。強いチームができたときの脅威です。

優れたリーダーが目標を掲げ、関係性をつくりあげる。これは本当に素晴らしいことです。しかし、この優れたリーダーに依存したままでいると、スタッフはどうしても受け身の姿勢になってしまい、主体性が育ちません。これは、その優れたリーダーがチームにいるうちはまったく問題になりません。優れたリーダーと優れたフォロワーが、優れた業績を出し続ける強いチームでい続けるはずです。ところが、その優れたリーダーがいなくなったときに、受け身の罠がむくむくと顔を出してきます。

強いチームを引き継ぐのは難しい

A店長の異動が決まったとき、店舗のスタッフたちはもちろん悲しみましたが、A店長と一緒につくってきたお店を守っていこうと皆で話し合い、新しい店長を快く迎え入れ、新しいチームをつくっていく決意を固めました。A店長も、新任のB店長に引き継ぎをしっかりおこない、スタッフみんなでサポートする体制もつくりあげました。素晴らしい滑りだしです。

しかし、悲しい現実ですが、B店長はA店長とどうしても比較されてしまいます。「前はああだった」「以前はこうしていた」と意図せずとも前任者と比較しているかのような発言が多くなります。このとき、B店長がA店長のように目標を掲げ、関係性を構築できればいいのですが、前任が優秀すぎるチームを引き継ぐのは、ゼロからチームをつくる以上に難易度が高いことです。

すぐに、B店長とスタッフは目標ベースの話し合いができなくなりました。「B店長のこの発言ってどうなんだろう?」「B店長の仕事の仕方ってこうだよね」と、スタッフ同士で、それは愚痴という認識すらなく会話されるようになったのです。そう、これは関係性ベースのコミュニケーションです。
「どうしたらもっと売上が上がるか」「どうすればお客様にもっと喜んでもらえるか」「どうすればもっといいチームになれるか」といった、A店長がいた頃はなんの問題もなく交わされていた目標ベースのコミュニケーションが、優れたリーダーを失ったことで関係性ベースのそれとなり、こまごまとした事柄が気になってしまうようになったのです。

するともう、組織は崩壊を始めます。小さな火種が大きくなり、ぽろっと離職が出る。その離職に釣られてもう1人ぽろっと辞める。新しく採用した新人が組織になじめなかったりする。そういう小さなほころびが積み重なって、組織はあっという間に機能不全に陥ってしまいます。

これは、どうしたらいいのでしょうか。B店長は、チームづくりを最初からやるしかありません。私はコンサルタントとして、「目標を掲げる」「関係性をつくる」を一からスタートしてもらうようアドバイスしました。

しかし、A店長はどうすればよかったのでしょうか。あれだけ素晴らしい強いチームがあっという間に崩壊してしまったのは、とても哀しく、寂しいことでもあります。

主体性を引き出す5つのステップ

その答えは、主体的な人を育てることに着手する、です。これを意識的しなければ、たとえ強いチームができていたとしてもその強さは持続しません。

私も、主体的な人を育てることに注力しなかったばかりに失敗した経験があります。コンサルティングという仕事は、いつかクライアントから離れる仕事です。支援期間だけ成果が出て、いなくなったあとに崩壊したり、元に戻ったりしてしまううちは、三流のコンサルタントだと自戒しています。

強いチームであり続けられなかった場合、リーダーがサボっているわけでも、頑張っていないわけでもありません。ただ、リーダーが「主体的な人を育てる」という方向にエネルギーを向けていないだけなのです。ですから、チームができあがってきたら、主体性を引き出すことに注力する必要があります。
では、具体的に何をすればよいか、5つのステップを紹介しましょう。

主体性を引き出す5つのステップ
ステップ1) リーダーからの「質問」で「問い」を生む
ステップ2) MUST→CAN→WANTで「欲求」を引き出す
ステップ3) 1人ひとりが「強み」を見つけるシナリオを描かせる
ステップ4) 利己的欲求を利他的欲求に「つなげる」
ステップ5) 「使命感」を持たせる

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プロフィール

高野俊一
高野俊一

組織開発コンサルタント。
1978年生まれ。日本最大規模のコンサルティング会社にて組織開発に13年関わり、300名を超えるコンサルタントの中で最優秀者に贈られる「コンサルタント・オブ・ザ・イヤー」を獲得。これまでに年200回、トータル2000社を超える企業の組織開発研修の企画・講師を経験。
指導してきたビジネスリーダーは累計2万人を超える。
2012年、組織開発専門のコンサルティング会社「株式会社チームD」を設立、現代表。
2020年よりYouTubeチャンネル『タカ社長のチームD大学』を開設。2023年6月現在、チャンネル登録者約3万5000人、総再生回数380万回。
2021年より、アルファポリスサイト上にてビジネス連載「上司1年目は“仕組み”を使え!」をスタート。改題・改稿を経て、このたび出版化。
著書に『その仕事、部下に任せなさい。』(アルファポリス)がある。

著書

チームづくりの教科書

チームづくりの教科書

高野俊一 /
成績が振るわない。メンバーが互いに無関心で、いっさい協力し合わない。仕事を...
その仕事、部下に任せなさい。

その仕事、部下に任せなさい。

高野俊一 /
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