皆さんは、自分の部下を辞めさせてしまった経験はありますか?
部下が辞めるというのは、上司にとって様々な意味で“きつい”出来事です。
人手が足りなくなる……
引き継ぎどうしよう……
これからも一緒に頑張ってくれると思っていたのに……
会社からの評価が下がってしまうかも……
部下が抜けた後の実務的な問題と、可愛がっていた部下がいなくなるという気持ちの問題とが同時にのしかかり、心が折れそうになることもあります。
何度か経験するうちに、「〇〇さん、お話があるんですが……」と言われただけで、「もしや退職では」と想像して胃がキリキリと痛む人もいるかもしれません。
部下から退職の相談を受けたとき、上司としての適切な振る舞い方とはどのようなものでしょうか。
中には、何とか辞めさせまいと、あの手この手で引き留めようとする人もいますが、そもそも引き留めることは可能なのでしょうか?
部下から退職を切り出されたときの対処法と、そもそも部下が辞めたいと言い出す前にそれを防ぐことができないのかを考えていきたいと思います。
部下から退職の相談を受けたときには、まず「なぜ辞めたいと思ったのか」を把握する必要があります。
辞めたい理由は、主に2つに分けられます。
①現在の問題:今の職場への不満=ネガティブな要因
②未来の問題:これから転職しようとしている未来への期待=ポジティブな要因
①の現在の問題は、給料が低い、人間関係が悪い、労働時間が長いなど、今の職場に対する不満で、ネガティブな要因です。
一方で、②の未来の問題は、自分がやりたいこと、もっとできることがこの会社の外にあるんじゃないか、他社や他業界、他業種であれば自分はもっと輝けるといった、これからの将来に対する期待やよりよい職場の追求で、ポジティブな要因です。
そこで、人が辞める/辞めないに影響しやすい4つの要素、
①給与・労働環境
②人間関係(上司・同僚・部下)
③やりがい(仕事内容・仕事の意味・業界)
④人生設計
それぞれについて、現在の職場はどうで、転職(独立)すると未来がどのようになると考えているのかをヒアリングし、部下の辞めたい理由を明らかにしていきます。
退職理由を聞きだしたうえで、部下を引き留められる可能性があるとすれば、部下の認識と現実にギャップがある場合”のみ“、です。
つまり、実際よりも現状を悪く捉えすぎていたり、逆に未来を良く捉えすぎていたりする場合です。
例えば、この会社は給料が上がらないと思っていたけれど、それは部下が給与交渉をしていないだけであったり、人間関係に悩んでいたけれど、相談さえしてくれればすぐ解ける誤解が原因だったり、ちょうど部署の移動が可能なタイミングであったりなど、ちょっとした解決策で今の耐え難い現状を変えられることは少なくありません。
また、「隣の芝は青く見える」状態で、部下が転職先の未来を過大評価していることは往々にしてあることです。部下自身が未来に何を望んでいるかを聞き出し、状況を整理することで、場合によっては客観的に「それは転職しても良い方向には進まないんじゃないかな?」と問いかけて、考えを改めるきっかけを与えることができます。
このときに重要なのが、自分の都合は脇に置いて、部下の未来を真剣に考え、相手のために話ができるかということです。
部下にとって退職は、人生の大きな転機です。退職相談というのは、まさにこれからの自分の人生をどう生きていくかという大切な相談なのです。
それに対して、会社はどうする、俺の部署はどうなる、俺の気持ちはどうなると上司の都合を全面に出して、辞めないでくれと懇願したところで部下の気持ちは冷める一方です。仮に認識のギャップがあったとしても、部下はそれを受け入れる気にはならないでしょう。
縁あって、同じ職場で働いている上司と部下になったのです。辞めたい部下と辞めさせたくない上司という「対立関係」ではなく、同じ方向を向いて、部下の未来のために本当に良い選択ができる手助けをしてあげるべきではないでしょうか。
そう考えたうえでも、やはり会社に残ることが部下にとって最善だと思うのであれば、胸を張って引き留めましょう。