巷では相も変わらず企業の労働環境に関するニュースが絶えませんが、歴史を紐解いてみれば、ブラックな職業は大昔から存在していました。そこで本連載では、古代・中世ヨーロッパや日本の江戸時代にまで遡り、洋の東西を問わず実在した超ブラックな驚くべき職業の数々を紹介していきます。あなた達は、本当のブラック職業を知らない……
その名の通り、パワーが自慢の大道芸人。でかい石や米俵など、とにかく重くて大きい物を持ち上げて見せる。確かに凄いことは凄いのだが、そこまでシンプルな内容で目の肥えた江戸っ子の皆さんにウケていたのか、老婆心ながら心配になってしまう。よほどの演技派だったのだろうか。資料として残っているイラストでは、力持(ちからもち)はバキバキのマッチョ、という風に描かれてはいない。一見ふつうの男が大石を……というギャップで、パフォーマンスに味付けをしていたのかも知れない。俗に言う「一見清楚なお嬢様がこんなに激しく乱れて……」システムである。
もちろん、物を持ち上げたりするほかにもレパートリーはある。肩の上に3メートルはあろうかという竹竿を立て、その上によじ登ったアシスタントの子供が竿の上であぐらをかいたり、逆立ちしたりするというもの。さらに、子供を担いだままの状態で笛を吹きながらあちこち歩き回ったというのだから、こちらはなかなかの見モノと言えよう。というか、上にいる子供のほうがスゲー、という説も無いではない。
現代に目を向けてみると、テレビのバラエティー番組であったりミュージカル調の演出を施されてあったりと形を変えてはいるが、力自慢のパフォーマンスは脈々と息づいていることがわかる。“肉体の限界に挑む”というテーマがウケるのは、いつの時代も普遍なのだと言えよう。ただ、現代では石を持ち上げたくらいでは満足してもらえないだろうが。
(illustration:斉藤剛史)