こんな仕事絶対イヤだ!

死と隣り合わせの中世版〝おくりびと〟――疫病埋葬人

2017.05.24 公式 こんな仕事絶対イヤだ! 第26回

巷では相も変わらず企業の労働環境に関するニュースが絶えませんが、歴史を紐解いてみれば、ブラックな職業は大昔から存在していました。そこで本連載では、古代・中世ヨーロッパや日本の江戸時代にまで遡り、洋の東西を問わず実在した超ブラックな驚くべき職業の数々を紹介していきます。あなた達は、本当のブラック職業を知らない……

ペストの遺体を埋葬する中世のおくりびと

14世紀から18世紀の長きに渡り、ペストの猛威はヨーロッパ全土を吹き荒れた。大勢の人が死を強要されることとなったが、残された人々はその遺体に病原菌が残っていると信じ、近づくことを嫌がった。だが、誰かがそれを墓地まで運ばなければならない。このありがたくないお鉢が回ってきたのは、『疫病埋葬人』たちであった。

彼ら中世の“おくりびと”には、死者への尊厳もへったくれもなかった。遺体を引き取るのは日没から日の出までの間に限られたし、感染拡大を防止するため家族が埋葬に立ち会うことも禁じられていた。遺体を馬車で運べたのは金銭に余裕がある家庭だけなので、貧しい病人の遺体は丈夫なキャンバス地のずたぶくろに入れ、墓地までずるずると引きずって行った。すわ死体遺棄か、と見まごうほどの光景である。墓地の区画はとっくの昔に先客で溢れていたので、その外れに大きな穴を掘って、数体の遺体をまとめて放り込んだ。この間、疫病埋葬人はパイプをふかすことをやめなかった。煙草の煙が病気よけになると信じていたのである。確かに、こんな迷信でも信じていなければ、恐怖で参ってしまうだろう。

また、彼らの住居は墓守小屋に限定され、外出の際には赤い杖を持つことを義務付けられた。疫病埋葬人ということを示す印である。まごうことなき被差別民の印であった。しかし、彼らの人権が奪われようとも、目に見えぬ死への恐怖が優先されざるを得なかった。ペストの蔓延と医学知識の欠如が招いた、悲しき職業人の姿であった。

(illustration:斉藤剛史)


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プロフィール

清水謙太郎
清水謙太郎

1981年3月、東京都生まれ。成蹊大学卒業後にパソコン雑誌の編集を手がける。また、フリーライターとして文房具、自転車などの書籍のライティングや秋葉原のショップ取材等もこなし、多岐に渡る分野でマルチな才能を発揮している。

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