ビジネス駆け込み寺

仕事をとるか夢に賭けるか悩んでいます

2015.11.02 公式 ビジネス駆け込み寺 第3回

仕事をとるか夢に賭けるか悩んでいます

システムエンジニアとして働きはじめて数年経つのですが、その傍らで趣味として長い間イラストを描くことを続けております。会社からは副業が認められていることもあり、現在は少しずつですがイラストの方でも仕事を頂けるようになり、些少ながらお金を得られるくらいの実力はついてきたと思っています。

しかし、これ以上イラストの仕事でステップアップすることを考えると、スキルアップのために、現在の仕事よりもイラストに専念するしかないと感じています。年齢的にも一念発起して幼少の頃からの夢を仕事にするチャレンジをしたいと思う一方で、安定した職を辞める踏ん切りもつかない状況です。自分の夢へのチャレンジに対して尻込みしてしまうくらいなら趣味は趣味のままと、このまま諦めた方がいいのでしょうか。

IT関係勤務(SE職) / 29歳 / 男性

実は私も同じ悩みを抱えています

システムエンジニアとして働く傍ら、趣味といえどもイラストレーターとしての仕事も依頼されているとのこと。これは、趣味としてイラストを描きながらも、これまで技術を磨き続けてこられた成果だと思います。「継続は力なり」という言葉がまさにピッタリですね。素晴らしいと思います!

しかし、お悩みを拝見すると、その力が大きくなりすぎて、それが悩みの種になっている様子ですね。安定した仕事を辞めて、一念発起して幼い頃からのイラストレーターの夢にチャレンジするか、それともいっそ諦めるべきか、ご自身の年齢、環境、思いなどの諸事情を考慮すると、簡単には決断できないですよね。

実は、この問題は私自身も抱えているものなので、あなたの気持ちが本当によく分かります。私は僧侶ですが、お寺の仕事だけでは生活ができない環境にあるため、現在はある会社に勤めながら、個人として翻訳、通訳、執筆の仕事をしております。
自分が必死に身に付けたコミュニケーション能力と語学力を活かして独立すべきか、それとも安全策を取るか、不安と悩みは尽きません。

それでも、どうにか自分の気持ちを落ち着かせる一つの考えに辿り着いたので、参考までにお話しさせて下さい。

それは、今の自分は今の環境、条件があるから存在しているのだ、ということです。つまり、今の環境、条件があるからいい翻訳、いい通訳、いい執筆ができていると思うのです。
さらなる高みを求めると、どうしても上手く翻訳したい、カッコイイ通訳がしたい、素敵な文章が書きたいなど、欲が出てしまい、ときとして思い通りにならない現実に不満を感じたり、苦しみの種となるでしょう。

もちろん、高みを目指すことや、向上心を持つことは決して悪いことではありません。
しかし、その半面、なかなか思い通りにはならないという苦しみも付きまとってくるということに気が付いたのです。それよりは、今の有り難い環境に感謝し、今自分にできることをしようという考えに落ち着きました。

自身の下した判断への覚悟が必要

仏教には「少欲知足(しょうよくちそく)」という教えがあります。これは、「欲を少なくして、足るを知る」と読み、「もう十分与えられていることに感謝する」という考えです。

あなたの話に戻しましょう。
少しだけ今のご自身を見つめ直してみてください。ご自身に問いかけて頂きたいのですが、最初から幼い頃からの夢を追い続けてきた結果、今のあなたが存在するのか、それとも紆余曲折がありながらも行き着いた結果、今のエンジニア兼イラストレーターのあなたが存在するのか、どちらでしょうか?

間違っていたら謝りますが、きっと、後者なのではないでしょうか。
「今のあなた」だからいい仕事もでき、いいイラストが描けているとは思いませんか? 
きっと今のあなたのイラストには上手に描きたいとか、そういった欲はなく、純粋に好きだからイラストを描き、その姿勢がイラストに反映され、多くの人々にさまざまな感動を与え、結果的にお仕事を頂いているのだと思います。今の環境、条件に感謝する気持ちを持つと、少し落ち着いた心持ちになるのではないでしょうか。

しかし、ここで誤解して頂きたくないのは、私はあなたの挑戦を抑えているのではないというということです。私がお伝えしたいのは、どんな決断をしたとしても、それにはさまざまな責任や苦労が伴います。
現状を維持するにしても、後悔の念と向き合わなければならないでしょうし、新たな挑戦をするにしても、沢山の不安や苦労と向き合わなければなりません。どちらの決断をされるにしても、ご自身の判断に伴う責任や苦しみと逃げずに向き合っていく覚悟が必要になるということです。この覚悟があるのであれば、どんな判断をされてもいいと私は思います。

しかし、その覚悟がまだできていないのであれば、副業が認められている今の有り難い(めったにない)環境に身を置き、覚悟が決まるまで焦らず待ってみるのもいいのではないでしょうか。ただ、何度も言いますが、どんな決断にも不安や苦しみはついてきますし、その責任は自分自身で負っていかなければなりません。ここから先は、あなた自身の覚悟次第です。

あなたが覚悟を持って納得いく決断をされ、笑顔で生活されることを願っておりますし、私はそんなあなたを応援しております。

協力:寺子屋ブッダ

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プロフィール

大來尚順
大來尚順

浄土真宗本願寺派 大見山 超勝寺 住職
著述家/翻訳家

1982年、山口市(徳地)生まれ。龍谷大学卒業後に渡米。米国仏教大学院に進学し修士課程を修了。その後、同国ハーバード大学神学部研究員を経て帰国。僧侶として以外にも通訳や仏教関係の書物の翻訳なども手掛け、執筆・講演・メディアなどの活動の場を幅広く持つ。2019年、龍谷大学 龍谷奨励賞を受賞。著書に『あなたは、あなた。』(アルファポリス)『超カンタン英語で仏教がよくわかる』(扶桑社) 『小さな幸せの見つけ方』(アルファポリス)など多数。

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