小さな幸せの見つけ方

父と酌み交わす酒

2018.05.21 公式 小さな幸せの見つけ方 第20回
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本音というものは「我」でしかない

普段の生活において、私たちは「本音」というものを口にすることは滅多にないと思います。いろいろと世間体を気にしたり、周囲に気を遣ってしまい、「本音」を口にすることを避けているというのが、実際の私たちの姿ではないでしょうか。もちろん、私たち全員が「本音」をぶちまけていたら、日常生活のそこら中でけんかが生じることになるでしょう。しかし、この「本音」は本当の意味での「本音」ではなく、単なる自分好みの意見、つまり「我」でしかありません。

本当の「本音」というのは、実際は自分自身で認識することはとても難しいものだと思います。それこそ、歯を食いしばって耐えてきたこと、辛くても誰にも相談できずにずっと胸にしまっていることなど、本気で誰かのために自分の気持ちや行動を抑えつけて我慢してきた結晶を「本音」と呼ぶのだと思うのです。きっと言葉では簡単に表現することはできないのではないでしょうか。しかし、その「本音」を言葉にして引き出させてくれるのは、語りたいと思える相手、聞いてくれる相手です。

私と父の場合、おそらくお酒を酌み交わす中で、私は父の「本音」を引き出していたのでしょう。しかし、私には引き出しているという感覚はありません。ただ、自分の想いをお酒と共に父に注いでいるだけです。そして、何よりも「これが父の本音だ」と確信を持ったこともありません。あくまでもなんとなく「これが父の本音なのではないかな」と思っているにすぎないのです。しかし、そこにはとっても温かいものが流れているのを感じます。なぜならば、それは「守りたい」「大切にしたい」という父の想いから派生しているからです。

お酒は、飲み過ぎると健康上、身体に悪影響を及ぼすこともありますが、適量であればときとして相手に「本音」を感じ取らせ、また感じとる手助けをしてくれるのかもしれませんね。父親だけではなく、母親、兄弟、姉妹、家族の方々や大切だと思う人々と、お酒ではなく想いを酌み交わすことを意識して、ゆっくり盃を交わす機会を作ってみてはいかがでしょうか。きっと温かい気持ちのとの対面につながることでしょう。

私も、いつか娘と盃を片手にお酒と共に想いを酌み交わせる日がくるといいなと願っています。

 

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プロフィール

大來尚順
大來尚順

浄土真宗本願寺派 大見山 超勝寺 住職
著述家/翻訳家

1982年、山口市(徳地)生まれ。龍谷大学卒業後に渡米。米国仏教大学院に進学し修士課程を修了。その後、同国ハーバード大学神学部研究員を経て帰国。僧侶として以外にも通訳や仏教関係の書物の翻訳なども手掛け、執筆・講演・メディアなどの活動の場を幅広く持つ。2019年、龍谷大学 龍谷奨励賞を受賞。著書に『あなたは、あなた。』(アルファポリス)『超カンタン英語で仏教がよくわかる』(扶桑社) 『小さな幸せの見つけ方』(アルファポリス)など多数。

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