cueのププププレゼン力

第11回 2016.09.14

あれもしたい これもしたい♥LOVE 僕の欲

「劇団はえぎわ」な、夏

8月29日。台風が近づき、夏がもうすぐ終わる。宣伝美術に舞台美術、衣装にとあれこれクリエイションした「劇団はえぎわ」の公演は今日で3日目。今、本番真っ最中です。

今年の夏は舞台制作一筋だったから、旅も花火も海も、夏らしいことは1つもしませんでした。結局オリンピックも、一度も見ていません。あ~夏よ、さようなら。ま、後悔なんて微塵もしていませんけど。水着……灼熱な太陽の下、一回も着なかったな~~~。

思い出す。夏=水着と言えば……♥

夏=水着と言えば思い出すのが2012年、優香ちゃんを起用したPARCOの夏の水着キャンペーンをクリエイションしたこと。はっきり言ってこのキャンペーンで映し出された優香ちゃんは、とびきりお洒落でキッチュでMAX大人SWEET♥で可愛かった! 今でも、ミラクルに素敵に仕上がったと自負しております。だってヤバイ可愛さだったんですもの。すごい自信作なので毎年ON AIRしてほしい~~~なんてね。

このプロジェクトのきっかけは、ロケで来ていたバンコクで受けた1本の電話でした。オフ時間にホテル内ジムのランニングマシーンで汗を流していたとき、普段は鳴らない国際電話が鳴り……不思議に思って出たのが運命★。

「もしもし? 成田さんですか?」「はい、成田ですが、どちら様ですか?」「突然で恐縮なのですが、優香出演で、PARCOの夏のキャンペーンをクリエイションしていただきたくお電話しました」

え? 何これ? ドッキリカメラ!? 優香? あのお茶の間で大人気の、優香ちゃん? それもあの! PARCO!? ランニングで汗だくの中、これは一体何なんだろうと驚きながら応対しました。

「今、海外におりまして、帰国は少し先になるのですが……帰り次第、すぐお会いして詳しいお話を聞かせていただけますか?」
何とかそう答えたものの、あんまりというか、わからないことだらけでポカ~ンとしたまま、その日の電話は終わったのでした。

それにしても……あの優香ちゃん、そしてPARCOとのクリエイション!? それもポスターのビジュアルクリエイションだけでなく、CM制作まで! ドキドキもんのこのお話。遠い異国の灼熱の太陽の下、僕の頭と♥は、このことで満杯になってしまいました。

愛すべきGIRLS 2人のクリエイター

電話のあともトレーニングを続けつつ、頭の中ではプランニングがぐるぐると猛スピードでスタート! 資生堂ではクリエイティブディレクターは務めていないので、企画に関わるクリエイションスタッフをすべて自分の裁量で決めるのは今回が初めて! なんて気分爽快なんだろう。最高!

現時点でまだ詳しい企画内容を聞いておらず、具体的なアイデアも出ていないけど、どうしても今、声をかけておきたい人達がいました。コピーライターの国井美果さんと、美術の中村桃子さんです。2人とも、広告界の第一線で活躍しているGIRLS。

実はこの2人、僕が20代の頃から仲良しの間柄なのです。国井さんは大学時代からの友人で、中村さんは母校多摩美術大学染織科の、一学年下の後輩。そんな彼女達は、僕の20代をよ~く知っています。発言も、行動も、キャラも、何もかも……。互いにこのクリエイティブな世界に入るなんて思いもしなかった若かりし頃からの、大好きな旧友です。

国井さんは、資生堂のコーポレートメッセージである『一瞬も 一生も 美しく』を書いた人で、資生堂のありとあらゆるキャンペーンの仕事に携わっています。よく資生堂オフィスでばったり会って話をしますし、お互い勤務地が銀座なので一緒にランチをしたり、僕の相談事や愚痴を聞いてもらったりすることも。
でも、不思議と一緒にクリエイティブする機会はなかったので、絶対この機会は逃したくない! チャンス到来とばかりに、バンコクから依頼メールを速攻で送りました。
「国ちゃん、まだどうなるかわからないのだけど、一緒にキャンペーンのクリエイティブをしてほしい。メインコピーを書いてもらいたいの」と。

世に出ている様々なCM(おそらく皆さんも目にしたことがあります)の美術を手がける中村桃子さんとは、資生堂メンズブランド unoのCMの仕事で一緒にクリエイションしたことがありました。でも、彼女と僕が大好きで大得意な、「ミラクルパッションキュートビューティーガールズテイスト」のクリエイションは、残念ながらご一緒したことがなく……。 来た! 来た! 今だよ! 今! ということで「まだ詳細はわからないんだけど、●月●日、スケジュール空けといて! 撮影があるから! 絶対、桃ちゃんに美術セットをデザインしてほしいの」と、東京にいる彼女に向けてメールしました。

優香×PARCO=SUMMER GIRL

さて、他に決めるべきは、ヘアメイクアーティストにスタイリスト、フォトグラファー、それからもちろんCM監督。誰にお願いしよう? こうして、妄想クリエイティブスタッフプランがぐるぐると脳内をめぐる中、タイから帰国。

日本に帰ってきたその日に、PARCOの宣伝部の方々と、今回の要となるプロデューサー・ホリプロの本多さんにお会いし、案件の詳細をお聞きしました。当時、雑誌「FRaU」(2012年2月号)の表紙をそのナイスバディーで飾り、写真集「優香グラビア」の発売も間近に控えていた優香ちゃん。そんな彼女と、PARCOがガッツリ組んでの夏のキャンペーン企画と聞いて、ワクワクドキドキでヤバイです。優香ちゃんをクリエイションさせてもらう機会が来るなんて。お茶の間のトップヒロイン・国民的CUTEタレントの彼女を、僕がどうクリエイションするの? でも、大人の女性として魅力的な小悪魔ナイスバディーの優香ちゃんが、水着をまとってのビジュアルとなれば……強烈MAX素敵にできるはずであります。

&PARCO。そう、PARCOと言えば、クリエイターなら誰だって一度はクリエイションしてみたいと思う人気のショッピングビル。数々のトップクリエイターが時代の空気を感じ取り、PARCOならではのテイストとセンスで、お洒落なキャンペーンを発表しては世間の話題をさらってきたのです。
自分がヤングのときには、毎回楽しくPARCOのCMを見ていました。PARCO=感度100%、みたいな図式なのです。だから今回も絶対にセンスよくお洒落に、でもみんなが理解できる、王道だけど見とれちゃうような企画にしたい! と妄想しながら先方のお話を聞いていました。そして僕は言ったのです。
「100%以上全力を出しますので、是非やらせてください。よろしくお願いいたします!」

この優香になりたい。この優香と過ごしたい。

このキャンペーンで、僕はクリエイティブディレクター、アートディレクター、デザイナーと1人3役をこなすことに。早速、1人でプランニングスタート!

「絶対に今年の夏はこの優香になりたい!」とGIRLSに思わせたい♥ BOYSには「この優香と夏を一緒に過ごしたい♥」と思ってもらいたい。そんな、夏らしくHAPPYでお洒落でカラフルPOPでキャッチーな企画にしたいと考えていました。1年で1番盛り上がる、夏。1番見せたい、夏。1番熱い夏、夏、夏。夏だからこうなった、という企画にしたい!
そんな思いを胸に、ポスターなどのメインビジュアルを考え、CMの企画コンセプトの絵コンテを描き、アイデアを思いつくだけ書き出していきました。確か、寒い寒い2月に。

「優香(ナイスバディーないい夏女)×PARCO(いい夏女になれる水着あるよ)×さらに夏だから」というアイデアアイテムには、いったい何が最適だろう?
もちろん、CUTEで可愛い優香ちゃんがヴィーナス。でも僕は、彼女のイメージをさらにハイクオリティなものに変えたい、変えられると考えていました。考えていたというより、直感的にそう感じていたのです。
それは、人に愛される共感性という最大のHAPPYさを彼女が100%以上持っていたから。そんな優香ちゃんのイメージを、世間がハッとするものにできたらとても素敵です。
そこで、「GIRLS達が真似したくなっちゃう! 彼女に憧れてPARCO GIRLになっちゃう!」というアイデアを考えることにしました。

ビジュアルの1つは、どーんと素敵な美しいナイスバディーを、隠さず真っ正面から見せたい。もちろん頭のてっぺんから脚の先までスタイリッシュ、ヘアメイクもネイルも完璧に。水着は、GIRLSならではのピンクカラーがド鉄板。そんなことを考えていると、夏だからか、真っ赤なスイカにかぶりつく優香ちゃんのビジュアルが思い浮かびました。それもSっ気たっぷりで余裕のある彼女が、美しく食し、その種を口からぷっと吐くという、イケテル攻めのイメージで。そうでありながら、「カラフルピンクでPOPな鳥カゴにいるような夏、レディを」と。ヤバイ、これ! COOLだわ。

もう1つのビジュアルは、サマードレスを着た優香ちゃんがソフトクリームをパクつくイメージにしました。夏の2大食欲、スイカとソフトクリームをキーアイテムとしたのです。もちろん、他のアイデアもたくさん考えていましたが。

夏の欲

このプランと僕の想いを、早速国井さんにプレゼンテーション。そうして彼女から出てきたキャッチコピーが、『あれもしたい。これもしたい。夏の欲。』でした。

OH! ブラボー! 「なんてGIRLSの気持ちを言い当てているんだろう」と大興奮。あれも、これもと可愛く素敵になりたいGIRLSの美しき欲求を見事に表現しています。GIRLSのそんな願いを叶えられる場所が、そう! PARCOだよ~ん、と。
なんだか、ショッパーを両手にたくさん抱えているSUMMER GIRLSが目に浮かぶようです。ポスターにもCMにも、この言葉しか載せない、語らせない、そう決めました。他の言葉で説明なんかしなくても、企画のコンセプトを最高に表現できている、そう感じたからです。
後日、このキャッチコピーを掲げてPARCO様にプレゼンテーションし、一発OK! いよいよ企画進行となりました。

上がる、上がる、クリエイティブスタッフ。ふ ふ ふ。

ヘアメイクアーティストは、資生堂に所属していたこともある、人気の岡田いずみさん。彼女とは入社以来の仲で、新人時代にはアシスタントとして共にクリエイションをしてきました。僕のキークリエイションとなった、2006年の資生堂ANESSAのキャンペーン。ライトブルーとレモンイエローの水着で爽快に夏を泳いだエビちゃんこと蛯原友里ちゃんをモデルに、BONNIE PINK「A Perfect Sky」というSUMMERヒットチューンを世に送り出したこのクリエイションは、岡田さんと一緒に手がけたものでもあります。

スタイリストの梅山弘子さんとは、僕が初めてアートディレクターを任されたヘアケアブランド MACHERIEの大型キャンペーン以来の仲。あれから13年間、ずーっと一緒に様々なクリエイションを手がけてきました。現在は、人気メイキャップブランド MAJOLICA MAJORCAを共に創っています。

フォトグラファーには、マジで世界の第一線で活躍中の、僕もとてもリスペクトしているTAKAKI KUMADA。彼とは、僕が企画し、福山雅治さん出演のヘアケアブランド TSUBAKIや、岸本セシルちゃんがモデルとなった、「ラブリーに生きろ♥」がコンセプトのINTEGRATEをはじめ、数々のクリエイションを共にしています。

ヤバイな。スタッフのキャスティング時点で、今回のクリエイションの質、完成度のレベルのすごさが見えてくる。テンション、上がる上がる!

LOVE♥全員集合!

もちろん、今回の主役ヴィーナスの優香ちゃんには、きちんとお会いして企画の内容と熱い思いをお伝えしました。彼女の第一印象は、小柄で、華奢で、まるで愛らしい小動物。なおかつ美しく、そしてクレバー。「一緒に創ろう! あなたをさらに羽ばたかせます!」と、まるで告白♥のような僕のプレゼンテーションを、すごく親身に聞いてくれました。「あ、うまくいく!」と、僕はこのとき直感します。だって彼女が本気だということがわかったから。

さて、このクリエイティブ企画への僕の熱い思いの映像化を一任すべくオファーしたのが、大人気の映像作家・田中裕介監督。サカナクションやPerfumeのプロモーションビデオをはじめ、数多くの映像クリエイション、CMで大活躍中の方です!

そして今回のCM曲は、あの! テイ・トウワ★★★★★ キャー! ミラクル過ぎる!?

あ~~~なんて素敵なクリエイター達が勢揃いしちゃったのでしょう。プロジェクトがHAPPYなものになるかどうかは人選にかかっている、僕はそう信じています。キャスティング命なのです。もちろん、今回その旗を降るのは僕。個々人のパーソナルな能力・経験はもちろん、人柄も大切だと思っています。このたびのメンバーは、みんな人間的に尊敬できて、キャラもいい。新しいクリエイティブチームとして、一丸となって素晴らしいビジュアルを創り上げられる、そんな確信がありました。鬼退治に向かうチーム桃太郎の気分です★

CMの撮影は1DAY。メインビジュアル2本とCM2本というハードスケジュールではありましたが、優香ちゃんは美しく素晴らしくプロフェッショナルに完璧に演じてくれました。こうしてHAPPYに撮影を終え、クリエイションが完成したのです。

あれもしたい♥ これもしたい♥

ご覧になった方も多いと思いますが、このキャンペーンは世の中でも話題になり、様々なメディアにも取り上げられました。渋谷PARCOの壁面にはドーンと大きく、スイカをクラッチバックのように手に持った水着姿の優香ちゃんが、ひと夏じゅうお目見えすることに。
また、PARCOのトークイベントでは、優香ちゃんと、「優香グラビア」のアートディレクターを務めた、僕と仲良しのえぐちりかさんと一緒にお話しまでさせていただきました。

そんなミラクルな2012年の夏。自分にとって、かけがえのないクリエイションです。この制作に関わったクリエイター達とは今でも仲良し。同じメンバーで、また別のクリエイションをしたいな~。THANK YOU♥LOVE。
初めて自分の意思ですべてのスタッフをチョイスした今回の経験……快感でした。ヤバイな~、クリエイティブディレクター。

あれもしたい♥ これもしたい♥ 僕の欲は続きます。

 


本連載が書籍に? 資生堂アートディレクター成田久氏が、銀座一丁目の森岡書店にて「ププププレゼン力」展を開催中! 2017年12月19日(火)~28日(木)まで。詳細はこちら

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プロフィール

成田 久
成田 久

アートディレクター・アーティスト。1970年生まれ。多摩美術大学・東京藝術大学大学院修了し、1999年に資生堂入社。宣伝・デザイン部に所属。アネッサのCMで蛯原友里を起用し、楽曲にBONNIE PINK「A Perfect Sky」を使用したことで一躍話題に。そのほかマシェリやマキアージュ、ベネフィーク、HAKU、インテグレート、unoなど多彩なブランドのアートディレクションを担当。更にTSUBAKIで初めて男性キャストとして福山雅治を起用するなど、資生堂商品のブランディングに大きく貢献する。
社外活動では13年NHK大河ドラマ「八重の桜」のイメージポスターのアートディレクションを担当するほか、多数のアーティストのCDジャケットやMVのアートディレクション等を手掛ける。更に雑誌「装苑」にて演劇レビューを連載するなど活動範囲は留まるところを知らない。

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