世間では、あまり表立った話題にはなっていないが、出版社の買収、統合が進んでいる。最近、ある出版グループのホールディング・カンパニーが、各社バラバラの場所に点在していた傘下の出版社を同じビルに集めた。私のような外部スタッフとしては、同じビルに付き合いのある会社が3社ほど入っているので、移動の手間が省けて大いに助かっている。ただ、ビルの中のカフェテリアで、ある出版社と打合せをしている時に、別の会社の編集者と遭遇して少し気まずい思いをすることもある。いまは同じグループであっても、彼らはそれぞれかつてライバル出版社の編集者だったからだ。
何年か前には、KADOKAWAグループが傘下の、ほぼすべての出版社を富士見町のビルに移動させるとともに、各社をKADOKAWAブランドに統一する方向に動きはじめた。出版社の統合に限らず、企業合併では、企業は統合できても融合は難しい。味の素グループのように各社のブランドを残している統合戦略もあれば、みずほ銀行のように新しい社名へ改め、組織の融合を目指すケースもある。
今後、出版界の再編が進む中で、各社のブランドを残したまま統合をするか、徹底した融合を試みるか、この点については後程また述べることにするとして、この先、ますます出版界の再編が進むことは間違いないはずだ。前回にも述べたとおり、平成という時代は出版市場がピークアウトした時代である。ビジネス書の推移も、出版市場の動きと概ね軌を一にしている。平成から新しい元号に変わっても、この流れに変化はないと見ている。したがって、新元号の下でさしあたり起こることは、出版界が5つか6つのグループに統合されていくことだろう。
規模は段違いだが、銀行が3つのメガバンクに統合されていった過程と似たものになるのではないか。ただ、出版界は銀行ほど市場規模がなく、社会的な影響も小さいので、大きな話題とならないまま、業界の再編が静かに進むと思われる。
再編の核となるのは、講談社、光文社を中心とする音羽グループ、小学館、集英社を中心とする一ツ橋グループ、そしてKADOKAWAグループ、徳間書店、主婦の友社など中堅どころの集合体である蔦屋(つたや)グループであろうと想像できる。それに文藝春秋社、新潮社、岩波書店、マガジンハウスなど、老舗版元のどこかが中核となって、グループがあと一つか二つくらいできるのではないか。ビジネス書出版社も、こうした再編の渦に巻き込まれることは避けられないだろう。
ただ、銀行業界でもメガバンクのほかに、地銀、信金などが残ったように、出版界も大手グループのほかに、いわゆる特色ある専門書出版社は残るだろう。小さくてもきらりと光る、特色ある出版社は再編の外で十分やっていけるはずだ。また、独自の流通、商流を持つ出版社も、再編の外で自立してやっていけるだろう。医学系、工学系、経済・法律系、経営学系、その他社会学系、それに哲学系や語学系の専門書、学習参考書などは、市場は小さいが一定の読者と需要のあるジャンルである。
教育系の専門出版社も独立して残るように思うが、学研やベネッセ、公文(くもん)など、このジャンルには上場企業が多いので、そちらに収斂(しゅうれん)していく可能性も高い。絵本や児童書などは、すでに別途再編の渦中にある。
講談社の音羽グループと小学館、集英社の一ツ橋グループは、まだ積極的なグループ拡大路線に走っているわけではない。目立ってグループの強化・拡大に動いたのは、蔦屋グループとKADOKAWAグループだ。蔦屋グループは、現状、傘下の出版社の社名をそのまま維持している。
ただ、一社、社名を改めたのがCCCメディアハウスである。同社は、蔦屋グループに入る前には阪急電鉄の傘下にあった。そのため、旧社名は阪急コミュニケーションズだった。阪急コミュニケーションズという社名に、いかにブランド力があったとしても、さすがに蔦屋グループで阪急とは名乗れない。阪急コミュニケーションズがCCCメディアハウスに改称したのは、蔦屋ブランドに統合というよりも、変えざるを得ないゆえの選択だったと見るべきだろう。