本の読者の場合でも、2割が共感してくれればその数字は小さくない。
特にビジネス書では、本を買ってくれた人の中で最後まで読んでくれる人は、100人中100人はいないだろう。
最後まで読んでくれる人が60%であれば、2割の共感者といっても、読了した人のうちの3分の1の支持を得たことになるのである。
ちなみに、多作の作家は自分の話と他者の話のハイブリッドがうまい。
人々の共感を得るには、講演でも本でも「わかること」が第一。
人にわかってもらうには、まず自分自身がよくわかっていなければならない。
講演者や作家自身が最もよくわかっているのは、自分のことだから、なにはともあれ自分の体験を語るというのは、手法として間違っていない。
そして、人間の体験というのは、それがどれだけ珍しいことであっても、他者に対して説得力を持つものである。
したがって、どんな人でも必ず一冊の本は書ける。
それは自分が体験したことを書いた本である。
自分の体験したことは、自分にしか書けない。
そこには、必ずユニークさやオリジナリティがある。
しかし、一人の人間が体験できることは限られている。
つまり、体験談だけでは生涯で出版できる本は一冊だけとなってしまう。
事実、そこそこよく売れた本の作家でも、一冊だけで消えてしまう人は少なくない。
講演のようなライブであれば、一発芸でも割合長く引っ張ることができるが、出版物の場合にはそうはいかない。
同じ話のリピートではすぐに限界がきてしまうのである。
そこで、テクニックとしてよく使われるのが、他人の話と自分の体験とのハイブリッドである。
「松下幸之助氏はこう言っているが、自分はこういう経験をしたことがある、だから幸之助氏の言葉の真意もきっとこういうことだったのだろう」という組み立てである。
自分の経験という外形上の事実に他者の見解を加えることによって、経験から得られる薫陶(くんとう)に、新たな意味づけを行うのである。
ひとつの経験であっても、切口を変え別の要素を加えることで、そこに新たな意味が生まれる。過去の体験であっても、新鮮さを発揮させることは可能なのである。
小難しい例でいえば、孔子や孟子などの古典に新解釈を加えることで、新しい読み方を発見するようなものだ。
このハイブリッド・テクニックで大事なのは、あくまでも自分の考え方を述べることが主であり、他者の話は従とすることである。
次回に続く